遺産分割
遺産分割協議書を自分で作成したい|専門家がやり方・注意点を徹底解説
遺産分割協議書は相続人同士での話し合いをまとめた書類であるものの、一つの記入ミスが揉めてしまう原因にもつながります。
しかし司法書士や弁護士に依頼するとなると、それなりの費用が発生するため、ご自身で作成できないのかと疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
そこで今回、遺産分割協議書を自身で作成する方法を紹介します。これから相続を控えている方はぜひ参考にしてください。
目次
遺産分割協議書とは?自分で作れる?
遺産分割協議書とは相続が発生した後の財産の分け方を相続人同士で話し合い、まとめた書類です。本来相続発生後は遺言書通りに財産を分割しますが、誰もが遺言書を作成しているとは限りません。
遺言書が無ければ、相続人全員が集まり「誰がどの財産をどれくらい相続するか」を話し合う必要があります。遺産分割協議を行わなければ、財産を相続することはおろか、相続税の申告・納税ができず、さまざまなペナルティや延滞税などが課せられます。
そのため相続発生後は遺産分割協議を行い、話し合いで決まった内容を一つの書類にまとめる必要があります。また被相続人(亡くなった方)から相続した不動産や預貯金などは名義変更をしなければ所有権は移転できず、活用することができません。
その際必要となるのが遺産分割協議書です。遺産分割協議書は「不動産を相続した」「預貯金を相続した」という証になるからです。
手書き・パソコンのどちらでも問題ない
遺産分割協議書は自由な様式であるため、手書きやパソコンなどで作成しても問題ありません。ただし所有権移転登記時には第三者が確認する書類でもあるため見やすいように作成することが重要です。
そのためできればパソコンのエクセルやワードを用いるようにしましょう。またインターネット上には遺産分割協議書のひな型もあります。初めて遺産分割協議書を作成する方はぜひ利用してみましょう。
遺産分割協議書を自分で作る際の手順
では実際遺産分割協議書はどのような内容を記入するのでしょうか。ここでは遺産分割協議書の作成方法について解説します。
被相続人の情報を記入する
はじめにタイトルのところに「遺産分割協議書」と記入します。その下に下記の項目を記入します。
- 被相続人の名前
- 生年月日
- 死亡日
- 本籍地
- 最後の住所
- 登記簿上の住所
- 最後の本籍
上記の項目の記入が完了した後は遺産分割内容を記入します。
各財産ごとに内容をまとめる
誰がどの財産を相続するかを明記します。例えば不動産を相続する場合は、土地や建物の登記簿謄本通りに記入します。
登記簿謄本を所有していない場合は法務局にて数百円で取得可能です。不動産の他にも金融機関の口座を相続する方もいます。現預金に関しては銀行名、支店名、口座番号などを記入します。
具体的な記入方法については後ほど紹介します。
相続人全員の名前を記入する
遺産分割内容の記入が完了した後は相続人の住所氏名を記入します。書類の右下に相続人全員分を記入しましょう。記入する順番は誰からでも良いですが、一般的には法定相続人の優先順位が高い順の方が見やすいです。
優先順位は以下の通りです。
最優先順位・・・配偶者
第1順位・・・子(または孫) 第2順位・・・直系尊属(親や祖父母) 第3順位・・・兄弟姉妹(または甥・姪) |
なお相続放棄した方は遺産分割協議書に記入する必要はありません。
相続人の人数分を作成する
遺産分割協議書は相続人全員分作成する必要があります。遺産分割協議が完了したあとは、それぞれ財産の名義変更を行います。
一部の相続人しか持っていない状態では名義変更手続きもなかなか進まないため、全員保有できるようにしましょう。
相続人全員で捺印(実印)を実施
最後に自分の名前の隣に捺印と裏表の表紙に割印をしたら完了です。自身の遺産分割協議書だけでなく、他の相続人の遺産分割協議書にも忘れずに捺印しましょう。
【全財産項目分】遺産分割協議書の書き方
ここからは遺産分割協議書に明記する各財産の記入方法を紹介します。間違えて記入すると、財産を円滑に相続できなくなるので注意してください。
預貯金
預貯金を相続する場合は以下の内容を先に記入します。
<現預金を明記する場合>
○○は次の財産を取得する。
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○ 口座名義人 ○○(被相続人の口座) |
上記のように記入すると誰が相続するかわかるようになります。しかし現預金の場合、複数人で分けることも多いです。その場合は以下の通りに記入しましょう。
以下の財産について、相続人○○が3分の2、○○が3分の1の割合でそれぞれ取得する。
○○は代表相続人として、以下の財産の解約及び払い戻し又は名義変更の手続きを行い、○○の取得分について、別途乙の指定する口座に振り込んで引き渡す。その振込に必要な手数料は、○○の負担とする。 ○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○ 口座名義人 ○○(被相続人の口座) (残高○○万円) |
被相続人の預貯金を分数で按分しても良いですし、金額を明記しても問題ありません。第三者がわかるように記入しましょう。
不動産
不動産も現預金に続いて相続することが多い財産です。ここでは「一軒家や賃貸アパート」「マンション」「共有持分」に分けて記入例を紹介します。
<一軒家や賃貸アパートなどの不動産を明記する場合>
○○は次の財産を取得する。
(土地の表示)
(一棟の建物の表示)
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一軒家や賃貸アパートは土地と建物を記入します。地番や家屋番号は聞き慣れないかもしれませんが、住所と異なるケースが多いため注意しましょう。
基本的には登記簿謄本の内容をそのまま記入すれば問題ありません。
<マンションの場合>
○○は次の財産を取得する。
(一棟の建物の表示)
(専有部分の表示)
(敷地権の表示)
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マンションの場合、マンションの建物全体と、相続する部屋の部分、マンション全体の土地と相続する土地の持分を記入します。こちらも一軒家同様登記簿謄本で確認することができます。
<共有持分にする場合>
○○は次の財産を取得する。
(土地の表示)
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誰が持分をいくら相続するかを明記するだけで問題ありません。また建物に関しても同様です。
配偶者居住権
配偶者居住権とは被相続人と一緒に住んでいた建物を配偶者が無償で使用できる権利のことです。本制度は2020年から適用できるようになり、配偶者の生活保護が確保できる法律です。
以前は配偶者の居住を保護する法律がなく、被相続人と一緒に住んでいたのにもかかわらず、他の相続人が居住していた家を相続し、売却するという事例も過去にありました。
配偶者の住む場所を保障するためにも遺産分割協議書に記入するようにしましょう。具体的な記入方法は以下の通りです。
被相続人の配偶者○○は、下記の建物の配偶者居住権を取得する。なお存続期間は遺産分割協議の成立日から配偶者の死亡する日までとする。 |
上記の内容を記入した後に、居住する建物の内容を明記します。
株式
株式を遺産分割協議書に記入する場合は以下の通りです。
次の株式は〇〇が取得する。
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どの会社の株式を何株取得するかを記入します。また株式を複数人で分ける場合、「相続人○○が3分の2、○○が3分の1の割合でそれぞれ取得する」などと記載します。
有価証券
有価証券の場合は以下の通りに記入します。
次の有価証券は〇〇が取得する。
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有価証券は証券に管理番号などが記載されているため、確認しながら記入します。なお、複数人で分ける場合は株式と同様に割合を記入しましょう。
葬式費用・債務
被相続人の葬儀費用を1人が立て替えた場合、相続財産からその費用を均等割合で負担することも可能です。記入する場合は以下の通りとなります。
葬儀費用の遺産分割協議書への記載例
被相続人に係る葬儀費用については、相続人○○が負担するものとする。 相続人○○及び○○は、被相続人○○に係る葬儀費用〇〇〇万円について、○○及び〇が均等の割合で負担する旨合意した。 |
名義財産
名義財産とは名義と所有者が異なる財産のことです。例えば親が買った自動車を娘が所有しているケースなどが挙げられます。
○○は名義人が異なる下記財産が被相続人の財産であることを確認する。
<車両の場合>
○○は以下の財産を相続する
|
名義財産は誰の名義であるかを先に記述し、その後誰が相続するかを明記します。
代償分割
代償分割とは相続人の代表者が遺産をすべて相続し、他の相続人に対し代償金として金銭を支払う方法です。代償分割を利用する際は以下の通り遺産分割協議書に明記します。
○○は○○に記載の財産を取得する代償として、○○に対し、金○○万円を、○○に対し金○○万円を、それぞれ令和○年○月○日までに支払う。 |
代償分割について記入する際は、「どの財産の代償金であるのか」「いつまでに誰にいくら支払うのか」がわかるようにしましょう。
換価分割
換価分割とは、相続財産の一部を売却し、現金を相続人で分ける方法です。不動産などを相続したくない場合に用いられることが多いです。換価分割も遺産分割協議書に明記します。
共同相続人全員は、○○不動産を売却換価し、売却代金から売却に伴う不動産仲介手数料、契約書作成費用、登記費用及び譲渡所得税を控除した金額を○○3分の1、○○3分の1、○○3分の1の割合で分配するものとする。
なお、売却は○○が担当し、被相続人名義の○○不動産は一時的に○○の単独名義とする。 |
その他
その他として遺産分割協議書の作成後に遺産が見つかった場合などはどのようにするか記入しておきましょう。一例としては以下の表を参考にしてください。
本遺産分割協議書に記載のない遺産が判明した場合、再度相続人全員で遺産分割協議を行うものとする。 |
遺産分割協議書を自分で作成する際の注意点
遺産分割協議書を自身で作成することを紹介してきましたが、以下の場合は無効となるため注意が必要です。
- 相続人全員ではない遺産分割協議
- 精神上の障害や認知症などの判断能力が乏しい相続人がいる場合
- 遺産分割の表示に錯誤があった場合
遺産分割協議は相続人全員が集まり、同意することがポイントです。1人でも不在の場合の遺産分割協議は無効となります。
また認知症などの判断能力が乏しい方は成年後見人を選任して代理人が遺産分割協議に参加する必要があります。さらに自分で遺産分割協議書を作成した場合に最も無効となることが多いのは、遺産分割の表示錯誤です。
遺産分割協議書は専門的な知識が求められる書類のため、初めて作成する方は記入方法を間違えていることが多いです。司法書士や弁護士に相談しながら作成することをおすすめします。
まとめ:自分で遺産分割協議書を作成するのは高リスク
今回は遺産分割協議書を自分で作成する方法を紹介しました。財産を相続するために必須な書類ですが、自身で作成することも可能です。ただし内容が複雑であり、専門的な知識が求められるため、事前に調べてから記入するようにしましょう。
また一つの記入ミスで相続する財産が異なったという事例もあるため、司法書士などの専門家に相談しながら作成するようにしましょう。
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