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小規模宅地等の特例とは|要件や計算事例から実際の減額率を知ろう
相続で今住んでいる土地を相続したが、相続税が高すぎるため手放さなければならない、というような事態を避けるため、「小規模宅地等の特例」という制度があります。相続が発生した際は積極的に利用し、相続税の負担を減らしましょう。
本記事では、小規模宅地等の特例の効果や、対象となる土地の種類、適用条件、計算例などを紹介します。相続税対策を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、相続した土地の課税対象となる評価額を最大80%減額できる制度です。相続税は、財産の課税評価額から、基礎控除額などを差し引いた金額に税率を掛け、控除額を引いた値です。
すなわち相続税の節税をするためには、財産の評価額を下げることが大切となります。
<相続税の計算手順> 1.小規模宅地等の特例で土地の課税評価額を減額する 2.財産の課税評価額の合計値を出す 3.課税評価額から基礎控除額を差し引く 4.取得した財産割合に対して按分する 5.按分した課税対象額に税率をかける 6.税率を掛けた値に控除を差し引く |
相続における更地の評価額は、土地の敷地面積に対して路線価を掛けた値となります。路線価とは、敷地1㎡あたりの評価額のことを指し、相続税の計算に用いられます。
相続時における更地の評価額=敷地面積(㎡)×路線価 |
例えば、敷地面積が300㎡で路線価が10万円の場合、更地の評価額は3,000万円になるということです。もちろんその他にも細かな計算はあるものの、おおよその金額は上記の計算で求めることが可能です。
しかし、小規模宅地等の特例を使用すると、600万円まで評価額を圧縮できるため、相続税の納税額を抑えられます。ただし、小規模住宅地等の特例で圧縮できるのは、「相続税の対象となる土地の評価額」であり、「相続税全体」ではないため注意しましょう。
小規模宅地等の特例の対象
小規模宅地等の特例は土地の用途によって軽減割合が異なり、下記の3つに分けられます。
対象となる土地の用途 | 用途の例 |
---|---|
特定居住用宅地等 | マイホームなど |
特定事業用宅地等 | 事業など |
貸付事業用宅地等 | 賃貸アパートなど |
特定居住用宅地等の場合
特定居住用宅地等とは、被相続人(亡くなった人)が住んでいた土地のことを指し、最大で80%減額できます。ただし適用を受けるには、被相続人の配偶者もしくは親族が土地を相続しなければなりません。
一般的に、被相続人と配偶者が同居しているケースまたは、同居していなくても子供などが相続する場合に適用できます。
特定事業用宅地等の場合
特定事業用宅地等は名前の通り事業として使用していた土地などが該当します。自営業をしていた土地などが対象です。ただし自営業でも不動産の貸付業などの事業は次で紹介する貸付事業用宅地等に該当します。
貸付事業用宅地等の場合
貸付事業用宅地とは、建物を第三者に貸し出して利益を得ている土地や、賃貸アパートなどの不動産貸付業を行っている土地のことを指します。
適用できる土地の面積にも制限があるため、単純に建築すればよいというわけでもありませんが、相続税対策として、小規模宅地等の特例を利用して更地にアパートを建築する人もいます。
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小規模宅地等の特例の限度面積と減額率
小規模宅地等の特例は適用できる面積と減額率が定められています。
土地の用途 | 限度面積 | 減額率 |
---|---|---|
特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
特定事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
限度面積を超える部分に関しては、小規模宅地等の特例を使用することはできませんので注意してください。
小規模宅地等の特例計算事例
ここでは小規模宅地等の特例を利用したときの計算例をご紹介します。
【特定居住用宅地等が330㎡で路線価10万円の場合の評価額】
通常の評価額 | 小規模宅地等の特例を使用した場合 |
---|---|
330㎡×10万円=3,300万円 | 3,300万円×(100-80)%=660万円 |
【特定居住用宅地等が500㎡で路線価10万円の場合の評価額】
通常の評価額 | 小規模宅地等の特例を使用した場合 |
---|---|
500㎡×10万円= 5,000万円 |
小規模宅地等の特例分:330㎡×10万円×80%=2,640万円 合計:5,000万円-2,640万円=2,360万円 |
土地面積が330㎡を超えているため、330㎡分は80%減額され、残りの170㎡分は減額せずに算出されます。
【特定居住用宅地等が400㎡で特定事業用宅地等が330㎡で路線価10万円の場合の評価額】
通常の評価額 | 特定居住用宅地等 | 特定事業用宅地等 |
---|---|---|
730㎡×10万円= 7,300万円 |
小規模宅地等の特例分:330㎡×10万円×80%=2,640万円 合計:4,000万円-2,640万円=1,360万円 |
小規模宅地等の特例分:330㎡×10万円×80%=2,640万円 合計:3,300万円-2,640万円=660万円 |
合計:1,360万円+660万円=2,020万円 |
マンションの場合でも小規模宅地等の特例が適用される
マンションなどにも小規模宅地等の特例を使用することは可能となります。ここでは「居住しているマンション」と「賃貸物件として貸し出しているマンション」の2つの例を紹介します。
居住していたマンションの場合
被相続人が居住していたマンションに関しては330㎡まで80%減額することが可能です。戸建ての土地相続と同じように、配偶者または親族などが相続する場合に適用できます。
とはいえ、分譲マンションなどは、土地を複数人で所有していることから、土地自体の評価額が低いため、大きな節税にはならない可能性があります。マンションの評価額を確認したい場合は、法務局にある土地の登記簿を確認してみましょう。
例えば4,000㎡の土地に対し、敷地権割合が45,000/10,000,000と記載されている場合、「4,000㎡×45,000/10,000,000=18㎡」となり、18㎡分が減額の対象となります。
賃貸していたマンションの場合
被相続人が賃貸マンションなどのオーナーだった場合、賃貸マンションは貸付事業用宅地等に当たるため、最大200㎡まで50%減額することが可能です。
分譲マンション同様、複数人でマンションの土地を所有している場合、敷地権割合に応じた計算をするようにしましょう。
同居していない親族が相続した場合の特例もある
同居していない親族でも小規模宅地等の特例を使用することは可能です(いわゆる「家なき子特例」)。ただし、特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等には使用できません。
また下記の条件を全て満たしている必要があります。
- 被相続人に配偶者も同居の親族もいない
被相続人の配偶者がすでに他界、または離婚している状態でなおかつ、親族と同居していない場合は特例を使用できます。
- 3年以内に自己所有の家に住んだことがない
被相続人が亡くなる3年以内に、相続人が被相続人や3親等以内の親族と同居していないことが条件です。ここでいう同居とは、住民票で確認します。
- 3年以内に親族が経営する法人が持つ家に住んでいない
相続開始前の3年以内に、親族が経営する法人が所有している家に相続人が住んでいないことが条件です。
- 被相続人が住んでいた住居を過去に所有したことがない
被相続人が住んでいた家を過去に所有したことがないことが条件です。一般的には珍しいケースですが、念のために確認したい人は法務局の登記簿を取得して確認しましょう。
- 相続発生から10カ月以内に相続した土地を売却しない
相続発生から10カ月以内に相続した土地を売却した場合は、小規模宅地等の特例を受けることはできません。10カ月というのは、相続税の申告と納税期限です。
納税するために土地を売却する方もいらっしゃいますが、その場合は特例の適用外です。
【関連記事】固定資産税は相続不動産分も支払う?不動産の税金支払い手続きを解説
小規模宅地等の特例を受けるために必要な書類一覧
小規模宅地等の特例を受けるためには下記の書類が必要です。
【共通して必要な書類】
書類項目 | 用意する書類 |
---|---|
マイナンバーカード | 下記のいずれか ・マイナンバーカード ・通知カード ・住民票 |
身分証明書 | 下記のいずれかのコピー マイナンバーカード 運転免許証 身体障害者手帳 パスポート 在留カード 健康保険証 |
相続税申告書の添付書類 | 下記の3つのうちのいずれか 戸籍謄本 法定相続情報一覧図の写し 戸籍謄本の写し |
遺言書または遺産分割協議書の写し(コピー) | 下記のいずれかの写し 遺言書(検認済みまたは公正証書遺言、自筆証書遺言保管制度を利用したもの) 遺産分割協議書(相続人全員の署名・捺印済み) |
印鑑証明書 | 相続人全員分 |
【特定居住用宅地等の必要書類】
被相続人と同居の相続人が必要とする書類 | 住民票 |
---|---|
二世帯住宅に住んでいる相続人が必要とする書類 | 住民票 |
同居していない相続人が必要とする書類(上述のいわゆる「家なき子特例」のケース) | 住民票 登記簿謄本 戸籍謄本 |
- 特定事業用宅地等の必要書類
基本的に事業を行っていた土地を相続した場合、特に必要な添付書類はありません。ただし、その宅地等が一定の郵便局舎の敷地として使われている場合には、総務大臣が交付した証明書を添付する必要があります。
- 特定貸付事業用宅地等
被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていたことを証明する書類が必要です。具体的には、登記簿謄本や賃貸借契約書などがあれば問題ありません。
まとめ:小規模宅地等の特例をうまく活用したい方は専門家へ
今回は小規模宅地等の特例について解説しました。相続した土地の課税対象となる評価額を最大80%減額できる制度です。土地の用途によって減額割合は異なるため、間違えないように注意しましょう。
小規模宅地等の特例はさまざまな適用条件があるものの、配偶者や子供などが相続すれば、基本的に利用できます。詳しくは専門家に相談しながら相続税対策をすることをおすすめします。
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