家族信託
家族信託・民事信託とは?違いや費用を知って納得できる財産管理を
自分の財産管理を他の人に任せられる「信託」という制度があります。信託には「家族信託」や「民事信託」などの種類があり、どのような違いがあるかわからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では家族信託と民事信託について解説します。老後の財産管理に不安を抱える方や、信託契約を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
目次
民事信託とは
「民事信託」とは、自身の財産の管理を別の誰かに任せる制度です。民事信託では、任せられた人が営利を目的とせずに財産を管理します。
現在の日本では65歳以上の方の約6人に1人が認知症であると推計されています。認知症と診断された方は原則、法律行為ができないため、所有している不動産の売却などが行えません。
そのため認知症になる前に信託契約を結び、他の人に財産の管理を任せる方が増えています。民事信託の対となるものが「商事信託」です。商事信託とは信託銀行が扱う投資信託などを指します。
家族信託とは
民事信託の中でも、家族による家族のための信託を「家族信託」と言います。自身の財産の管理を家族など信頼できる人に託す制度です。
家族信託は下記の3者で構成されます。
- 委託者:財産を託す人
- 受託者:財産を管理する人
- 受益者:利益を享受する人
例えば、高齢者である父親が委託者で、受託者を長男、受益者を父親と仮定します。父親の賃貸アパートの管理を長男が行い、父親へ収益が入るようにすることができます。
家族信託の「受託者」の範囲
では家族信託の受託者になることができるのはどのような人でしょうか。ここでは受託者の範囲について解説します。
受託者になれる人は家族だけではない
家族信託という名称ですが、民事信託と同じ制度のため、受託者になれるのは家族だけではありません。弁護士などの第三者や法人でも受託者になることが可能です。
受託者になれない人
未成年者は受託者になることができません。未成年者は一部の例外を除き、原則として単独で法律行為を行うことができないからです。
【関連記事】家族信託の際にかかる税金とは|種類や発生する仕組みを解説
家族信託・民事信託の目的とは
そもそも家族信託・民事信託はどのような目的で行うのでしょうか。ここでは3つの目的について解説します。
委託者の判断能力低下前に受託者に財産管理を委任
委託者の判断能力が低下する前に受託者へ財産の管理を委任することを目的としています。高齢になるにつれ認知症を発症する可能性が高くなります。
認知症と診断された方は下記の行為をはじめとするさまざまな法律行為を行うことができなくなります。
- 金融機関での取引・・・融資・入出金・口座振込・定期口座契約
- 不動産取引・・・売買・賃貸・建築・リフォーム
- 生命保険・・・契約・解約・更新・変更
- 贈与・・・生前贈与・相続時精算課税制度
- 金融取引・株式投資
しかし家族信託・民事信託契約を締結することで、受託者は財産の管理ができます。そのため、委託者の預金から出金したい場合や不動産を売却したい場合は委託者に代わって受託者が行うことになります。
遺言書として機能させる
遺言書は被相続人(亡くなった方)の意思で自身の財産の帰属先を定めた書類です。
家族信託においてもあらかじめ誰に財産を承継させるかを定めることが可能なため、遺言書と同じように、財産を承継させたい人を事前に定めることが可能です。
倒産隔離機能として使う
委託者や受託者が万が一、破産などをしても、原則として信託財産を差し押さえられることはありません。信託財産は委託者や受託者の固有財産ではなく、独立した財産として扱われるためです。
家族信託を締結した後の信託財産は、委託者から受託者に移転します。しかし一般的な所有権移転とは異なり、登記記録上、下記の通り「信託」と登記されます。
金融機関での取引・・・融資・入出金・口座振込・定期口座契約 不動産取引・・・売買・賃貸・建築・リフォーム 生命保険・・・契約・解約・更新・変更 贈与・・・生前贈与・相続時精算課税制度 金融取引・株式投資 |
上記の通り、所有権移転登記はしたものの、登記原因が信託と登記されている場合、その財産が信託財産であることを表します。
そのため、債権者は信託財産を差し押さえることはできず、委託者の財産を守ることが可能です。
家族信託にかかる費用
では家族信託を締結するための費用はどれくらいかかるのでしょうか。大きく分けて4つの費用が発生するため、詳しく解説します。
公正証書の作成費用
家族信託の信託契約書の作成は「公正証書」で作成することがあり、その場合、財産額に応じた手数料が発生します。公正証書とは、公証役場で公証人立ち合いの下に作成される、公証人に一定の事項が証明されている書類です。
家族信託の場合、自身で作成することもできますが、当事者だけで作成される書類よりも信頼性の高い公正証書を選ぶ方もいらっしゃいます。
登記費用や登録免許税(不動産の場合)
家族信託契約を結び、不動産の所有権移転登記を行う場合、下記の計算式で算出される登録免許税を納税しなければなりません。
1 所有権移転 平成4年1月2日受付第○○号 原因 平成4年1月2日売買 所有者 東京都千代田区・・ 佐藤 父 2 所有権移転 令和4年12月1日受付第○○号 原因 令和4年12月1日信託 受託者 東京都千代田区・・・佐藤 子 |
固定資産税評価額とは、土地や建物の固定資産税を算出する際に用いられる指標です。固定資産税納税通知書に記載されているため、確認しておきましょう。
専門家への報酬
家族信託の契約書の作成は複雑な手続きであることから、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する方が多いです。専門家へ依頼すると報酬を支払わなければなりませんが、家族信託についてアドバイスをもらえるメリットもあります。
ただし費用は専門家によって異なるため、事前に確認してから相談することをおすすめします。
受益者代理人や信託監督人への報酬
受益者代理人とは、受益者の権利を代理で行使する人のことであり、信託監督人は受益者に代わって受託者を監視・監督する人のことを指します。受益者が未成年者などの場合に依頼することになります。
【関連記事】家族信託は銀行で口座を開設する?|手続きや選び方を解説
まとめ:家族信託・民事信託で困ったら司法書士へ
今回は、家族信託と民事信託について解説してきました。民事信託の中でも、家族によるものを家族信託と言いますが、特に制度内容に違いはありません。
どちらも営利を目的にしない信託契約で財産の所有者が認知症と診断された際などに家族などの受託者が財産を管理できます。契約するためにはさまざまな費用が発生します。詳しくは司法書士などの専門家に相談してみましょう。
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