家族信託
家族信託において公正証書を作成する必要性|必要書類や費用も解説
認知症と診断された方は本人の意思で財産を動かすことができません。そんな時のため、財産の管理を他の人に任せられる「家族信託」という制度があります。
家族信託は、財産の持ち主(委託者)と管理を任される人(受託者)の間で契約を締結します。契約書は自身で作成することも可能ですが、「公正証書」で作成したほうがよい場合があります。
この記事では信託契約で公正証書が必要なケースや、必要書類、費用を紹介します。初めて家族信託を利用する方や、公正証書を作成すべきか迷っている方はぜひ参考にしてみてください。
目次
家族信託でトラブルを避けるなら公正証書が有効
家族信託の信託契約書は自身で作成する「私文書」と公証人立ち合いの下で作成する「公正証書」の2種類があります。自身で作成する場合、当事者の意思に沿わない内容の契約書を作成してしまい、トラブルに発展することも考えられます。
一方、公正証書は公証役場を訪れて公証人の立会いの下で作成されます。公証人は裁判官・検察官・弁護士の資格がある人が任命されるため、第三者に一定事項を証明された契約書を作ることができます。
家族信託の信託契約書を公正証書にすべきケース
では家族信託の信託契約書を公正証書で作成すべき場合は、どのようなケースが挙げられるのでしょうか。ここでは3つのケースを紹介します。
信託中に金融機関が関わるとき
信託中に金融機関が関わるときは、公正証書による信託契約書が必要です。具体的な例は下記の3つが挙げられます。
- 銀行で信託口口座を開設する場合
- 証券会社で信託口口座を開設する場合
- 銀行で信託内借入を受ける場合
預金を信託する際には、「信託口口座」を開設することになりますが、金融機関からは公正証書による信託契約書の提出を求められるケースが多いです。
金融機関によって異なるため、あらかじめ金融機関に信託契約書が公正証書でなければならないか確認しましょう。
家族の関係性が良くないとき
第三者を介在させず、当事者だけで契約書を作成したときに、契約当時の意思能力に疑義がある場合など、家族間の関係性が良くない場合はトラブルになることがあります。
その意味では、第三者である公証人が契約当事者の意思を確認することが、トラブルの回避につながりますので、公正証書で信託契約書を作成するメリットがあるといえます。
委託者の判断能力に低下が見られるとき
日本では65歳以上の6人に1人が認知症であるといわれています。さらに年齢を重ねると認知症になる確率も高まるため、判断能力が低下してきたと感じる方は公正証書での家族信託を検討したほうがよいです。
認知症と診断されてしまうと、法律行為は行えなくなる上、預金の入出金など財産を動かすことができなくなります。信託契約もできなくなるため、重症化する前に信託契約を結ぶことが大切です。
家族信託の信託契約書を公正証書にしない(私文書で問題ない)ケース
家族信託の信託契約書を公正証書にする必要性について解説してきましたが、一方で私文書でも問題がないケースもあります。具体的にどのようなケースであるかを紹介します。
自宅を信託する場合には公正証書は不要
すでに住宅ローンを完済している場合や、自宅を担保として融資を受ける予定がない場合は金融機関が関連しないため私文書でも問題ありません。
また委託者の介護費用を賄うための売却も、不動産会社と司法書士に対応してもらえるため私文書でも問題ありません。
自社株式の信託の場合にも公正証書は不要
自社株式を信託する場合、私文書でも問題ありません。金融機関が関わることがないからです。
【関連記事】家族信託は銀行で口座を開設する?|手続きや選び方を解説
家族信託の公正証書に必要な書類
家族信託の信託契約書を公正証書で作るための必要な書類は、下記にまとめています。
本人確認資料 | 運転免許証やマイナンバーカードなど公的機関から発行された書類 |
---|---|
委託者と受託者の 実印と印鑑証明書・実印 ・印鑑証明書1通ずつ(発行から3カ月以内のもの) |
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当事者の戸籍謄本 | 遺言公正証書を作成する際は必要 |
信託財産の内訳が分かるもの | 預金通帳 登記事項証明書 固定資産評価証明書など |
- 預金通帳
- 登記事項証明書
- 固定資産評価証明書など
公正証書で信託契約書を作成する場合、委託者だけでなく受託者の書類も必要です。またどの財産を信託するのかを明記するためにも、信託財産の内訳がわかる書類も用意します。
家族信託の手続きにかかる費用
家族信託の手続きにかかる費用はどれくらいなのでしょうか。ここでは「公正証書を作成する費用」をはじめ、「専門家に依頼した場合の費用」と「自身で作成する場合の費用」を紹介します。
公正証書で信託契約書を作成するときの費用
公正証書で信託契約書を作成する場合、目的の財産価額に応じた手数料を公証人に支払う必要があります。詳しくは下記の表をご覧ください。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
専門家に依頼する場合
公正証書は専門家に作成を依頼することも可能です。法律行為であるため、司法書士や弁護士に一任しているケースも多いです。
ただし、信託財産の1%前後の費用がかかる場合があります。依頼先ごとに費用が異なるため事前に確認しておきましょう。
自分で手続きを進める場合
自分で手続きを進める場合、下記の費用が発生します。
戸籍謄本または抄本 | 1通450円 |
---|---|
固定資産税評価証明書 | 300円(不動産の数によって異なります) |
登記事項証明書 | 数百円 |
印鑑証明書 | 数百円 |
公正証書費用 | 信託財産による |
登録免許税 | 建物は固定資産税評価額の0.4%、土地は0.3% |
信託口口座開設費用 | 金融機関によって異なる |
専門家に依頼するより費用を抑えることが可能ですが、時間や労力がかかります。
ひな形を使って家族信託の公正証書を自分で作成する
信託契約書のひな形はインターネットで検索すると数多く出てきます。記入例もあるため、参考にしながら作成できます。
ただし、最終的には適切な内容であるかを専門家に確認する必要があるでしょう。
【関連記事】家族信託で後悔する理由とデメリット|必要性とメリットまで解説
まとめ:「家族信託」や「公正証書」でお困りの方は専門家へ相談しましょう
今回は、家族信託を公正証書で作成する必要性を紹介しました。家族信託の信託契約書を公正証書で作成すると、金融機関が関わる時や委託者の判断能力に不安が見られる時などに役に立ちます。
信託口口座を開設する場合や認知症を発症する前に信託契約を結びたい場合は、特に公正証書による家族信託を検討する価値があります。
公正証書作成の手数料は、財産の価額によって異なります。公正証書を作成する前に、どれくらいの費用がかかるか計算してみることをおすすめします。
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