相続手続
被保佐人とは|一人でできないことや、成年被後見人・被補助人との違いをわかりやすく解説
相続手続きではさまざまな法律行為が必要ですが、認知症や知的障害などを診断された人は法律行為を制限されることがあります。
法律行為が難しい人をサポートする制度の一つに、「被保佐人・保佐人」という制度があります。
この記事では被保佐人の概要と、被保佐人が一人でできること・できないこと、保佐人が必要となるケース、成年被後見人や被補助人との違いについてご紹介します。
相続を円滑に進めたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
被保佐人とは
被保佐人とは、軽い認知症や知的障害などがあり、高額な買い物や重大な契約の締結などの重大な財産に関する法律行為が難しいために、家庭裁判所から選任された「保佐人」のサポートを受ける人のことです。
ただし、日用品の買い物など日常的な法律行為を行うことはできるため、被保佐人が周りにいらっしゃる方は、一人でできることとできないことを理解しておくとサポートしやすいでしょう。
被保佐人が一人でできないこと・できること
家庭裁判所によると、被保佐人が“財産上の重要な行為”をする際に保佐人のサポートが必要とのことですが、財産上の重要な行為とは具体的にどのような行為なのかご紹介します。
一人でできないこと
被保佐人が一人でできないとされる財産上の重要な行為には、下記の行為が当てはまります。
- 相続放棄・遺産分割協議
- 不動産の売買・建築・リフォーム
- 賃貸借契約の解除
- 金融機関からの借入
- 他人の債務の保証人
- クレジットカードの契約
- 株式の購入
- 訴訟
- 贈与・仲裁・和解
など
主に、多額の金銭に関する行為は「保佐人の同意権・取消権の対象になっている法律行為」に該当します。
例えば、被保佐人が相続放棄を希望する場合でも、被保佐人一人の手続きでは、後で取り消される可能性があるため、他の相続人が相続放棄するものとして話を進めることができません。
保佐人の同意の下の相続放棄であれば、他の相続人も安心して遺産分割協議を進められます。
また、被保佐人が希望しているのに保佐人が同意しない場合、家庭裁判所に許可をもらえば上記の法律行為を行うことができます。
一人でできること
被保佐人は全ての法律行為が制限されているわけではないため、一人で行えるものもあります。
財産上の重要な行為に当たらないものをご紹介します。
- 遺言書の作成
- 結婚
- 公共料金などの支払い
- 日用品の購入 など
被保佐人は中度の認知症や中度の知的障害などを診断された方が該当します。
日常的に生活する上では、適切な判断が可能とみなされます。
日常的な買い物まで制限されると、被保佐人が困ってしまうからです。
保佐人が必要な具体例
保佐人は被保佐人の権利や財産を守らなければなりません。保佐人が必要な具体例を紹介します。
- 被保佐人の貯金が家族や他人に使い込まれないように、保佐人が被保佐人の預金口座を管理する
- 被保佐人が押し売りや詐欺の被害に遭うのを防ぐ。被害に遭ったときは取り消す。
- 相続人である被保佐人の遺産分割協議の意思を追認する
生活のさまざまな場面で、保佐人の同意や追認、取り消しが必要です。
保佐人の権利と義務
保佐人には三つの権利が認められ、二つの義務が生じます。一つずつご紹介します。
権利①:同意権
同意権とは、被保佐人が行う法律行為に肯定の意思を示す権利です。
「上記契約に同意します」と「被保佐人○○保佐人」と記載して署名押印することで行使します。
同意権は、民法第13条1項に記載されている行為と家庭裁判所に別途申し立てた行為に必要です。
民法第13条1項各号に定められている行為
1号 元本を領収し、又は利用すること 2号 借財又は保証をすること 3号 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること 4号 訴訟行為をすること 5号 贈与、和解又は仲裁合意をすること 6号 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること 7号 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること 8号 新築、改築、増築又は大修繕をすること 9号 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること
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引用:
https://www.courts.go.jp/otsu/vc-files/otsu/file/kouken25hosaninQandA-0402.pdf
民法第13条1項に定められた行為以外にも、家庭裁判所に申し立てた行為も同意権の対象となります。
権利②:取消権
被保佐人が保佐人の同意なしで法律行為を行った場合に、その法律行為を取り消せる権利のことを指します。
また取り消さずに同意する「追認」をすることも可能です。
例えば、保佐人の同意なしで不動産を購入した場合、取り消しすることができますが、収益性も高く、優良物件である場合は、追認して契約を確定的に有効なものとすることができます。
保佐人の同意なしで被保佐人と契約をした相手方が、保佐人に対し1か月以上の期間を定めて追認を要求し、回答がなければ追認したものとみなされます。
回答がなければ取り消したとみなされて契約は最初から無効だったということになります。
ただし、被保佐人が、自分が被保佐人ではないと思わせるように詐術(だますこと)した場合は取り消しすることができません。
権利③:代理権
被保佐人の代理権を得るには、家庭裁判所に申し立てなければなりません。
被保佐人が法律行為をする必要はなく、本人に代わって契約などの法律行為を行うことができる権利です。
介護施設への入所や不動産の建て替え、預貯金の引き出しなどで行使することがあります。
被保佐人・成年被後見人・被補助人の違いを表でチェック
被保佐人に似た制度に「成年被後見人」と「被補助人」も存在します。どの点で異なるのか表でご確認ください。
成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
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判断能力の違い | 重度の認知症や知的障害の人など、常に判断能力が欠けている人。 | 中度の認知症や知的障害の人など、判断能力が著しく不十分な人。料理などの家事ができるものの、契約などの行為を判断できない状態。 | 軽度の認知症や知的障害の人など、判断能力が不十分な人。契約などの判断は可能であるが、多少援助が必要な人 |
法定代理人に与えられる権利 | 取消権・代理権 | 同意権・取消権・代理権(代理権を持たない場合もある) | 同意権・取消権・代理権(代理権を持たない場合もある) |
代理権付与に対する本人の同意 | 不要 | 必要 | 必要 |
法定代理人の同意が必要な行為 | なし | 重要な財産行為 | 重要な財産行為の一部 |
まとめ:相続で被保佐人の制度が必要な方は専門家へ相談
今回は被保佐人の概要や一人でできること・できないこと、保佐人が必要な具体例、保佐人の権利と義務ついて解説しました。
被保佐人は日常的な買い物などはできるものの、財産上の重要な法律行為は保佐人の同意が必要です。
被保佐人の相続人がいる場合、保佐人の同意がなければ、遺産分割協議で決まったことが取り消される可能性があります。
相続人全員で円滑な相続手続きになるよう心掛けましょう。
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