成年後見
成年後見人に弁護士が選任されるメリットや発生する費用|トラブルの対処法も
令和3年12月末時点における成年後見制度の利用者数は23万9,933人に上ります。成年後見制度とは、認知症を診断された方などの財産を管理するための制度です。
成年後見人には、親族や司法書士や弁護士などの専門家が選出されます。
この記事では成年後見人に弁護士が選任された場合のメリットと費用相場について解説します。老後の財産管理に不安を抱える方や、これから成年後見制度の利用を検討している方は参考にしてみてください。
目次
成年後見人に弁護士が選任された場合のメリット
弁護士が成年後見人に選任された場合、どのようなメリットが挙げられるのでしょうか。ここでは3つ紹介します。
事務手続きを一任できるため親族の負担が減る
弁護士が成年後見人となった場合、書類の作成や事務手続きが一任できるため、親族の負担が減ります。成年後見制度は法律に関する行為が多く、また1年に1度程度ですが、家庭裁判所に財産の収支や管理状況を報告しなければなりません。
親族の方が後見人になると、手間と労力がかかります。結局家庭裁判所に提出する書類は、専門家に相談しながら作成することになるかもしれません。弁護士であれば、問題なく作成が可能です。
財産管理や身上監護に感情的対立が起こらない
親族が成年後見人になると、後見事務を進めていく際に感情的になり、場合によっては他の親族とトラブルになる可能性があります。例えば成年被後見人(認知症と診断された方など)が施設へ入所するべきかどうかで揉める場合などが考えられます。
また不動産の売却などをする際も、他の親族から反対されるかもしれません。弁護士は親族と感情的な関係がないため、職務を全うすることだけに注力します。
親族間の状況や関係にとらわれず、常に成年被後見人のことを考えることから、感情的対立は生まれないというメリットがあります。
法的トラブルにスムーズに対処してもらえる
成年被後見人が、振り込め詐欺、不良品の購入などのトラブルに巻き込まれた際、弁護士が成年後見人であれば解決の期待度は大きく上がります。
【関連記事】成年後見人の登記事項証明書とは?見本や発行方法・有効期限を解説
成年後見人に弁護士が選任された場合に発生する報酬
弁護士が成年後見人に選任された場合は報酬が発生します。裁判官が対象期間中の後見事務の内容や財産状況などを考慮して、裁量によって、適正妥当な金額を算定し、審判をします。
成年被後見人のご家族が成年後見人になるケース(親族後見人)では、ご自身の家族のことなので後見事務に対する報酬を考慮しないことが多いですが、弁護士は職務の一環として後見業務を行うため、後見事務に対する報酬を考慮する必要があります。
ではどれくらいの報酬が発生するのでしょうか。ここでは「成年後見人の申立費用」と「基本報酬」、「付加報酬」の3つをご紹介します。
成年後見人の申立費用
家庭裁判所に成年後見人を申し立てる場合、下記の項目の費用が発生します。
申立手数料および登記手数料 | 3,400円分の収入印紙 |
---|---|
戸籍謄本の交付手数料(成年被後見人分) | 450円 |
住民票または戸籍附票の交付手数料(成年被後見人分) | 300円 |
「登記されていないことの証明書」の交付手数料(成年被後見人分) | 300円 |
住民票または戸籍附票の交付手数料(成年後見人分) | 300円 |
商業登記事項全部証明書の交付手数料(成年後見人分) | 600円 |
不動産の登記事項全部証明書の交付手数料 | 600円 |
不動産の固定資産評価証明書の交付手数料 | 400円 |
診断書の発行手数料 | 数千円程度 |
鑑定費用(医師の判断が必要な場合) | 10万円~20万円 |
後見申立費用 | 3,270円分の切手 |
保佐・補助申立て | 4,210円の切手 |
鑑定費用以外は基本的に必要です。裁判所が成年被後見人について鑑定が必要と判断した場合、鑑定費用として数十万円の費用が追加でかかるため、注意してください。
約2万〜6万円の基本報酬(月額)について
成年後見人が選任された場合、原則月額に計算して約2万円の報酬額が裁判所の審判により決定します。管理する財産に応じて下記の報酬が発生する場合があります。
管理財産額 | 基本報酬額 |
---|---|
1,000万円未満の場合 | 月額2万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下の場合 | 月額3万円~4万円 |
5,000万円を超える場合 | 月額5万円~6万円 |
上記の価格は月額であり、年間に換算すると、36万円〜72万円にもなります。
さらに、後見人制度は、原則成年被後見人が亡くなるまで続くため、場合によっては数百万円、数千万円にも及ぶ可能性があります。
付加報酬について
成年後見人が、日常業務以外の特別なことを行った場合、付加報酬が加算されることがあります。一般的な成年後見人の職務に加え、特別に困難な事情に対処する場合は、「基本報酬額の50%の範囲内の金額」を支払うことになります。
また下記の項目に該当する場合などは、付加報酬が加算される場合があります。金額はあくまで目安です。
- 被後見人に代わって訴訟を行い、勝訴して管理財産額を1,000万円増額させた場合
数十万円 - 被後見人に代わって遺産分割調停を行い、数千万の財産を取得した場合
取得した額の1%前後 - 居住用の不動産を売却し、療養看護に必要な費用を捻出した場合
売却価格に応じて数十万円から数百万円
上記は一例であるものの、財産が増加した場合や、施設への入居手続きなどを行った場合は、さらに報酬が加算されます。金額は家庭裁判所が判断するため、適切な価格ではあるものの、高額となるケースが多いため注意してください。
弁護士と他の専門家の違い
弁護士が成年後見人に選任された場合は、法的トラブルに強いところが大きな利点です。成年被後見人が紛争に巻き込まれる可能性が高そうな相続手続きや訴訟、調停などの予定がある場合は弁護士が選任されたほうがよいでしょう。
また資産を多く所有している方は、後々親族間でもトラブルになりかねないため、弁護士を候補者としておくのも一つの方法でしょう。
成年後見人の解任請求の方法
成年後見人となった弁護士と親族でトラブルが避けられないことがあるかもしれません。ここでは、「成年後見人の解任請求を行う方法」を解説します。
後見人に職務違反行為、職務怠慢などの「不正な行為、著しく不行跡その他後見の任務に適しない」事実があるときは、本人の親族、検察官の請求により家庭裁判所は成年後見人を解任することができます。また、職権で家庭裁判所が解任することもできます。
- 不正な行為
不正行為とは、「財産の私的流用」や「財産の横領」があった場合です。
1年に1度程度、家庭裁判所へ財産の管理状況や収支報告を提出しなければなりませんが、成年後見人が故意に正しくない報告をしている場合もあります。そのような不正な行為は解任理由になります。
- 著しい不行跡
著しい不行跡とは、成年後見人として品位にかける行為や財産の管理がずさんだった場合、適正に欠けると判断されることです。例えば、毎月の支払い忘れや税金の申告・納税を延滞していた場合が該当します。
- その他後見などの任務に適しない事由
その他後見などの任務に適しない事由とは、家庭裁判所の命令を無視したり、成年被後見人や親族との関係を悪化させたりする場合が該当します。
もちろん上記の行為を行っていた証拠が必要となるでしょう。解任事由を具体的にまとめ、不正を行っていた事実を記録として残しておくことが解任請求をする上でのポイントになります。
【関連記事】遺産相続で成年後見人が必要なケースは?選ぶ流れや費用、注意点を解説
まとめ:成年後見制度中にトラブルが想定されるなら弁護士がよい
今回は、成年後見人に弁護士が選任された場合のメリットと費用相場について解説しました。弁護士は法律のプロであるため、さまざまな面で対応してくれます。
後見報酬は、成年被後見人が亡くなるまで負担が続くため、ある程度の経済力は求められるでしょう。弁護士以外にも親族や司法書士など成年後見人の候補者を立てることはできます。老後の財産管理に不安を抱える方は、一度専門家へご相談ください。
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