相続税
相続した不動産を売却して相続税を支払う方法|申告前の計算と節税対策
相続税は、相続が発生してから10か月以内に納税しなければいけません。納税しなければ延滞税などのペナルティーも課せられるため、期日管理は非常に重要です。
相続税は2015年に基礎控除額が改正され、1人当たりの納税額は2020年には平均1,700万円になりました。年々納税者が増え、更に非常に高額な納税額であるため、相続した不動産を売却して納税している方も多くいらっしゃいます。
本記事では相続財産の不動産を売却して相続税を支払う方法について解説します。これから相続を控えている方はぜひ参考にしてください。
目次
相続税の申告前に本当に必要か検討
相続税の納税者は亡くなった方の法定相続人のうち、毎年約8%の相続人が該当します。財務省が発表している「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」の相続税の課税状況の推移を見ると、令和元年では1,381,093人が亡くなり、115,267件が課税対象となりました。
1件あたりの法定相続人が2.74名であるため、1年間で316,000人が納税していることになります。8%という数値は少ないと思う方も多いかもしれませんが、基礎控除額の改正から約2倍にも増加しています。
そのため、自身が相続税の課税対象であるか事前に判断しておくことが望ましいです。相続税は基礎控除額以内であれば課税対象にはなりません。基礎控除額は下記の計算式で算出できます。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
参考:https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/e07.htm
例えば法定相続人が配偶者と子ども2人であれば基礎控除額は4,800万円となります。この金額以内の財産であれば相続税は課税されないと判断できます。
しかし不動産や株式の財産評価方法は非常に複雑なため、細かな計算をする際は税理士などの専門家に相談するケースが多いです。
単純に基礎控除額が大きいからといって納税しなくて済むとは限らないため注意しましょう。
【関連記事】贈与税の基礎控除額は110万円|申告方法 ・改正・細かい条件について紹介
相続税の資金を得るために不動産売却する場合の計算
税理士などの専門家に相続納税額を計算してもらったあとは、相続税の納税を行わなければいけません。しかし納税額が高額であるために不動産を現金に換えて納税する方も多いです。
不動産の売却は単純に売却価格が手元に入る訳ではなく、譲渡所得税を考慮しておかなければいけません。譲渡所得税は下記の計算式で算出できます。
譲渡所得税=(収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用) )×税率 |
ここでの収入金額は売却利益を指します。取得費は不動産を購入した費用が該当しますが、売却した財産にかかった相続税は取得費に含めることができる特例もあります。特例に関しては後ほど紹介します。
譲渡費用は不動産を売却する際にかかった費用が該当します。また税率は不動産を所有していた期間によって下記の通り異なります。
長期譲渡所得税率(所有期間5年超) | 20%(所得税15%+住民税5%) |
短期譲渡所得税率(所有期間5年以下) | 39%(所得税30%+住民税9%) |
相続した不動産を売却する場合、相続税の納税期限が10か月以内と定められているため短期譲渡所得税率が適用されることがほとんどでしょう。
約40%の税金を売却利益から支払う必要があるため、税金を踏まえて売却しなければいけません。また上記の税金以外に所得税に2.1%をかけた「復興特別所得税」という税金も納税する必要があります。
不動産売却にかかる主な費用
不動産を売却する際は税金の他にも下記の費用を支払う可能性もあります。それぞれの項目について解説します。
仲介手数料
不動産を売却する際に仲介を行ってくれる不動産会社へ支払う手数料です。仲介手数料は下記の計算式で算出できます。
仲介手数料=(売買代金×3%+6万円)+消費税 |
仲介会社は決済時に一括支払いするのが通常ですが、売買契約時に半金、決済時に残金を支払うケースもあります。売買契約時には売主から売却代金をもらっていない状態であるため、自己資金から支払う必要があると認識しておきましょう。
境界確定費用
土地の境界が不明確の場合、土地の所有者と隣地の所有者を集めて境界を決める手続きを行います。境界杭も時間が経つにつれて紛失していることが非常に多いです。
買主が境界杭がなくても問題ないと言えば、この費用は発生しませんが、一般的にトラブル回避のために境界確定はあったほうが良いとされています。
境界確定は土地家屋調査士に依頼し、法務局にて登記を行います。費用としては境界不明確の箇所数と隣地所有者数によって異なるものの、数十万円から数百万円となります。
立ち退き費用
売却する不動産が賃貸アパートや月極駐車場であり、買主の購入条件が更地渡しである場合、賃借人を立ち退かせる必要があります。
ただし立ち退きしてもらうには正当な事由が必要です。また一般的に立ち退き告知は6か月前までにしなければならないため、退去してもらうには半年かかると認識しておきましょう。
また、賃貸借契約書に準ずるため、契約書の解約条項を確認してください。立ち退き費用の相場としては家賃の6か月分から8か月分です。
立ち退きは自身で行うか弁護士に依頼する2パターンあります。もちろん弁護士に依頼した場合は更に費用が発生します。
解体費用
更地渡しとして売却する場合は解体費用が必要です。買主によっては解体工事を購入後に行う代わり、解体費用分を売却代金から差し引いてほしいと言われることもあります。
詳しくは売買契約前に仲介会社を経由して決めましょう。
抵当権設定抹消費用
既存借入がある不動産を売却する場合や完済したのにもかかわらず抵当権が設定されたままの不動産である場合、抵当権抹消を行わなければいけません。費用としては数万円程度です。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続した不動産を相続税申告期間も含めた3年10か月で売却すると相続税を取得費に含めて譲渡所得税を計算することが可能となる特例です。
つまり譲渡所得税の節税につながります。具体的に比較してみると、納税額は下記の表の通りとなります。
●売却する物件価格:5,000万円 ●保有期間3年(税率39%) ●取得費0円 ●譲渡費用200万円 ●相続税500万円 |
|
通常の譲渡所得税 | 特例を使用した譲渡所得税 |
譲渡所得税=(収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用) )×税率 | 譲渡所得税=(収入金額 – ( 取得費 +相続税+ 譲渡費用) )×税率 |
納税額=1,872万円 | 納税額=1,677万円 |
今回のケースでは約200万円近くの節税効果があります。
不動産売却で節税できるその他の特例
不動産を売却して利益が出た場合は譲渡所得税が課せられます。しかし売却時にはさまざまな特例が利用でき、節税することも可能です。
ただし細かな適用条件をクリアしなければいけないため、ここで詳しく解説します。
居住用の家を売却
被相続人が居住していた家を売却する場合、3,000万円の特別控除が適用できます。譲渡所得が3,000万円未満では課税されないため、利用をおすすめします。ただし適用条件が細かく設定されています。
- 被相続人が住んでいた家屋を売るか家屋とともにその敷地や借地権を売ること
- すでにこの特例またはマイホームの買換えやマイホームの交換の特例等を適用していないこと
- 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。 など
基本的に被相続人が住んでいた家を第三者に売却する際はこの特例を使用することが可能です。ただし直近で本特例やマイホームの買換え特例などを使用している場合は適用できないため注意が必要です。
10年超で所有した家の軽減税率
被相続人が家を10年間以上所有して売却した場合、譲渡所得税に軽減税率を適用することができる特例です。税率は売却利益が6,000万円を境に下記の税率となります。
売却利益 | 6,000万円以下 | 6,000万超 |
---|---|---|
所得税 | 10.21% | 15.315% |
住民税 | 4% | 5% |
合計 | 14.21% | 20.315% |
長期譲渡所得税率は20%となるため、6,000万円以上の売却利益であれば損をすることになります。また、先ほど紹介した3,000万円の特別控除と併用することも可能です。
保有期間が5年以上の不動産売却
平成21年1月1日から平成22年12月31日までの間に購入した土地を売却する場合、売却利益から1,000万円の控除が適用でき、譲渡所得税の節税ができます。
例えば土地を5年以上保有して売却し2,000万円の利益がでた場合、本特例を使用すると下記の表の通り納税額が異なります。
5年以上保有して売却した場合 | 平成21年に購入した場合 |
400万円の譲渡所得税 | 200万円の譲渡所得税 |
非常に節税効果が見込める特例ではあるものの、購入時期が定められていることもあり、利用できる方に制限があります。また他にも適用条件があるため、下記の表を参考にしてください。
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ほかにも細かな適用条件があります。詳しくは税理士などに確認しましょう。
相続した空き家の売却
被相続人が居住していた家を相続した場合、条件を満たせば譲渡所得の金額から3,000万円の控除が可能となります。通常の譲渡所得税と比較すると下記の通りとなります。
通常の譲渡所得税 | 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例使用した譲渡所得税 |
譲渡所得税=(収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用) )×税率 | 譲渡所得税=(収入金額 – ( 取得費 + 譲渡費用+3,000万円) )×税率 |
非常に大きな節税効果が見込めるものの適用条件が細かいため、しっかり確認するようにしましょう。主な適用条件は下記の通りです。
- 被相続人が住んでいた家または家と土地を相続し、2016年4月1日から2023年12月31日までの間に売却した
- 被相続人がひとりで住んでいたこと
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 相即開始から売却までの間に賃貸物件や事業用物件として貸し出ししていないこと
- 売却価格が1億円以下
- 売却先が親子や夫婦など近親者でないこと
参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
相続不動産売却で利益が出たら確定申告
不動産の売却で利益が発生した場合、譲渡所得税を納めるために確定申告が必要となります。確定申告を怠るとこれまで紹介した特例が使用できなくなり、通常の納税額を納めなければいけなくなることもあります。
ただし、売却時の税金計算は非常に複雑であるため、間違えた確定申告をすると修正申告しなければいけません。そのため税理士へ相談し、正しい確定申告をするようにしましょう。
【関連記事】相続税に関する相談は税務署?無料相談先や目的別の窓口や手続き法を紹介
まとめ:不動産の売却の手続きは抜け漏れなく
今回は相続した不動産を売却して相続税を支払う方法を紹介しました。不動産の売却は売却代金が全額手元に入ることはほとんどなく、さまざまな税金や諸費用を支払う必要があります。
少しでも売却代金を手元に残すためにも本記事で紹介した特例を利用しましょう。ただし、適用できる特例にも限りがあります。
全て利用できるわけではありませんので、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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