相続税
非上場株式の相続税評価方法とは|特例や制度の利用で相続税対策を
会社を経営している親が亡くなった際、親が保有していた株式は上場株式だけではなく、非上場株式であっても相続財産の対象となります。相続した場合、相続税が発生する可能性があり、相続税の金額を算出するためには、株式の金額を確定させる必要があります。この記事では非上場株式の相続税評価額の算出方法と特例、納税までの流れについて解説します。中小企業の非上場株式の経営者や後継者はぜひ参考にしてください。
目次
非上場株式の相続税評価額
非上場株式の相続税評価額は、会社の規模によって定められているため、相続税評価前に会社区分を調べる必要があります。
純資産(帳簿価額) | 従業員の数 | 取引金額 | 会社規模 | |||||
卸売業 | 小売・サービス業 | それ以外の業種 | 卸売業 | 小売・サービス業 | それ以外の業種 | |||
– | 70人以上 | – | 大会社 | |||||
20億円以上 | 15億円以上 | 35人超 | 30億円以上 | 20億円以上 | 15億円以上 | |||
4億円~20億円 | 5億円~15億円 | 7億円~30億円 | 5億円~20億円 | 4億円~15億円 | 中会社 | 大 | ||
2億円~4億円 | 2.5億円~5億円 | 20人~35人 | 3.5億円~7億円 | 2.5億円~5億円 | 2億円~4億円 | 中 | ||
7,000万円~2億円 | 4,000万円~2.5億円 | 5,000万円~2.5億円 | 5人~20人 | 2億円~3.5億円 | 6,000万円~2.5億円 | 8,000万円~2億円 | 小 | |
7,000万円未満 | 4,000万円未満 | 5,000万円未満 | 5人以下 | 2億円未満 | 6,000万円未満 | 8,000万円未満 | 小会社 |
引用:国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書(平成30年1月1日以降用)p.2」
従業員が70人以上の会社の場合、大会社に区分されます。従業員数が70人未満の場合、上の表の「総資産(帳簿価額)」と「従業員数」を確認し、会社規模が小さい方を選択します。その後「取引金額」を比較して会社規模が決まります。
<例> 業種:小売業 総資産:10億円 従業員数:35名 取引金額:20億円 小売業で純資産10億円、従業員35名からなるので、「中会社」に該当します。さらに取引金額は20億円に該当するため、「中会社の大」に該当します。 |
非上場株式の相続税評価の計算方式は2種
非上場株式の相続税評価の計算方式は「純資産方式」と「類似業種比準方式」の2種類あります。
純資産方式
純資産方式とは会社の資産を相続税法が定める基準に基づいて相続税評価額を算出する方法です。大きな含み益を持つ会社は、評価額が高くなる傾向にある一方、負債を多く抱える会社は、評価額が低くなる傾向にあります。計算式は下記の通りです。
一株当たりの相続税評価額=(相続税評価額での総資産額-相続税評価額での負債額-評価差額の法人税等相当額)/発行済株式数 |
会社の資産と負債を財産評価額に基づき評価します。資産は土地や建物、有価証券は時価、負債額は引当金や準備金を含めず、死亡に関する退職手当金や功労金などが含まれます。評価差額の法人税相当額は、純資産と帳簿価額との間の含み益に対して37%を乗じた金額です。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は被相続人(亡くなった方)が多く株式を保有していた場合に用いられることが多いです。本来であれば、純資産方式を用いて非上場株式を評価しますが、純資産額を使用すると、株式の相続税評価額が高くなる傾向にあり、相続税が割高になる可能性があります。類似業種比準方式は上場企業の市場株価を参考としているため、実態にあった評価をすることができ、純資産方式よりは株価が低くなるという特徴があります。類似業種比準方式は下記の計算式で算出できます。
一株当たりの相続税評価額=類似業種の株価×(1株当たり年配当金/類似業種の1株当たり年配当金+1株当たり年利益金/類似業種の1株当たり年利益金+1株当たり純資産/類似業種の1株当たり純資産)/3×斟酌率(大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5) |
非上場株式の相続税納税猶予および免除の特例がある
非上場株式の相続税の納税には、猶予と免除の特例が設けられています。相続税の納税は、相続が発生した翌日から10か月以内と定められています。納税資金がない場合、相続した不動産などを売却して支払うことになります。しかし非上場株式は上場株式と異なり、買い手が見つかりにくく、換金に時間がかかることがあるため納税猶予が設けられています。特例を利用するためには、主に下記の要件等を満たす必要があります。
・申告期限までに都道府県知事の認定を受けること
・被相続人が会社の代表権を有していたこと
・被相続人が相続開始直前で、親族を含め議決権を50%超保有し、後継者を除いた人の中でも最も多く保有していたこと
・相続人が相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権を有していること
・相続人及びその相続人と特別な関係にある者が相続開始時点で、議決権を50%超保有していること
・相続開始の直前において、相続人が会社の役員であること
・「上場企業」「中小企業者」「資産管理会社」「風俗営業会社」のいずれかにも該当しないこと
・相続税の金額及び利子税の金額に見合う担保を提供できること
特例措置と一般措置の違いを表でチェック
下記の表は特例措置と一般措置の違いについて記載したものです。
特例措置 | 一般措置 | |
事前の計画策定等 | 特例承継計画の提出 【平成30年4月1日から令和6年3月31日まで】 |
不要 |
適用期限 | 次の期間の相続等・贈与 【平成30年1月1日から令和9年12月31日まで】 |
なし |
対象株数(注1) | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 100% | 相続等: 80%、贈与:100% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
雇用確保要件 | 弾力化(注2) | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | 譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除 | なし (猶予税額を納付) |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の贈与者から18歳(注3)以上の者への贈与 (租税特別措置法第70条の2の8等) |
60歳以上の贈与者から18歳(注3)以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与 (相続税法第21条の9・租税特別措置法第70条の2の6) |
(注1)議決権に制限のない株式等に限ります。
(注2)雇用確保要件を満たさなかった場合には、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第20条第3項に基づき、要件を満たさなかった理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、その確認を受ける必要があります。
なお、当該報告書および確認書の写しは、継続届出書の添付書類とされています。
(注3)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。
引用:No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)|国税庁
相続時精算課税制度も相続税対策に有効
「相続時精算課税制度」とは、非上場株式や不動産、現金など2,500万円までの財産の贈与税の支払いを相続まで先延ばしにできる制度です。相続時に支払う税金の額は、贈与時の評価額から算出するため、相続時に価格が上がっていたとしても計算には関係ありません。将来的に大きく成長する見込みのある非上場企業の株式を生前に贈与しておくことで、結果的に相続税対策になるかもしれません。
非上場株式の相続手続きまでの流れ
非上場株式を相続する流れは下記の手順で行います。
遺言書の確認・相続人調査完了
相続が発生したら、まず遺言書と相続人の確認を行います。遺言書は必要に応じて家庭裁判所に検認してもらい、遺言書が改ざんされたものでないことを確認します。相続人は司法書士などの専門家が戸籍をさかのぼって調べます。どちらも数週間はかかるため、次のステップと並行して行います。
株式発行会社に申し出
相続により株主が変わるために手続きが必要なため、株式発行会社に伝えて準備を進めてもらいます。
評価額の算定
株式の評価額は税理士等の専門家に依頼して「純資産方式」または「類似業種比準方式」で算出してもらいます。評価額は相続税の納税額を左右するため、正確な評価額を出さなければなりません。
遺産分割協議
株式を含め、全ての財産の評価額が算出できたら、遺産分割協議を行います。誰がどの遺産を相続するのかについて話し合い、内容をまとめた書類(遺産分割協議書)を作成します。遺産分割協議書は相続人全員の署名捺印を行い、各人が1分ずつ保有します。遺産分割協議書がなければ、非上場株式だけでなく、不動産や定期預金も相続できません。
株主変更の手続き
遺産分割協議書の作成が完了した後は、発行会社へ相続したことを伝え、株主の名義を変更します。戸籍に加えて遺言書もしくは遺産分割協議書が相続人であることの証明書類となります。
まとめ:非上場株式の評価額は会社の大きさがポイント
今回は、非上場株式の相続税評価額の算出方法と、特例、相続手続きの流れを紹介しました。非上場株式の相続税評価額は、会社の規模によって定められています。非上場株式の評価額は、会社規模を基準に「純資産方式」または「類似業種比準方式」で算出します。また納税が難しい人は、猶予や特例も設けられているため、専門家に相談することをおすすめします。
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