相続税
普通養子縁組と特別養子縁組とは?養子縁組のメリット・デメリットを詳しく解説
養子縁組を行うことで税務上大きな節税対策が見込めます。
言葉は聞いたことはあるものの、どのような内容かご存じない方も多いのではないでしょうか。
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があり、それぞれ要件が異なります。
しかし、養子縁組ができれば相続税の節税効果を見込むことができ、納税額を抑えることも可能です。
もちろん節税というメリットだけでなく、デメリットもありますので、本記事で養子縁組の詳細を説明します。
また実際どれくらい相続税の納税額を圧縮できるかのシミュレーションも紹介するため、これから相続を控えている方は是非参考にしてみてください。
目次
養子縁組とは
養子縁組とは、血族的に親子関係ではない方と法律上親子になる制度です。
相続における養子縁組は、法定相続人を増やすことになるため、基礎控除額が増え、相続税の納税額を減らせるメリットがあります。
相続税は亡くなった方(被相続人)の遺産合計額から基礎控除額を差し引いた金額をさらに法定相続分に按分し、税率を掛けた金額を納税します。
つまり課税遺産総額が少なく、基礎控除額が大きければ納税額は少なくなるということです。
祖父母などが孫を養子縁組しているケースも多く見受けられますが、相続税の基礎控除額を増やし納税額を圧縮することを目的にしている場合が多いです。
養子縁組と養子の数の上限
養子縁組は民法上制限がありませんので、何人でも可能です。しかし相続税の基礎控除額を計算する上では、最大2人までと定められています。ただし、被相続人に子供がいる場合は最大で1人までとなります
- 被相続人に実の子供がいる場合…1人まで
- 被相続人に実の子供がいない場合…2人まで
普通養子縁組
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類あります。
ここでは普通養子縁組について解説します。
普通養子縁組とは
普通養子縁組とは、実の親が居ながらも養子縁組をすることです。
例を挙げると、父親の弟に子供がおらず、姪や甥である子を父親の弟と養子縁組するケースなどが該当します。
また中小企業の後継者がいない場合は、従業者を養子にする場合も該当します。
普通養子縁組は、養親側の家系を保持するために行われることが多いです。
普通養子縁組の要件
普通養子縁組をする場合の要件は以下の通りです。
- 養子縁組に関して双方同意している
- 養親が20歳以上もしくは婚姻していること
- 養親より養子の方が年下であること
- 養子が養親の叔父や叔母などの尊属(父や母、祖父母など、いわゆる直系の先祖のこと)でないこと
- 後見人である養親が被後見人を養子にする場合は家庭裁判所の許可が得ていること
- 未成年者を養子縁組は家庭裁判所の許可を得ていること
- 養子が婚姻している場合は配偶者の許可を得ること
- 養子が15歳未満の場合、家庭裁判所が定めた法定代理人による本人に代わる縁組の承諾があること
- 養子縁組届の提出をしていること
普通養子縁組をする場合は、養子と養親が双方同意していることが条件です。
養子が20歳以上であればスムーズに養子縁組ができますが、未成年や15歳未満、後見人である場合は家庭裁判所などが関わるため、養子縁組が完了するまである程度日数が必要となります。
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特別養子縁組
次に特別養子縁組について紹介します。
特別養子縁組とは?
特別養子縁組とは、実の親との血族関係を断ち切り、養親と養子縁組をする方法です。例えば実の親から虐待などを受けている子供を守る時が該当します。
特別養子縁組は子の福祉を守るためと認識しておきましょう。
特別養子縁組の要件
特別養子縁組は普通養子縁組と比べて、要件が複雑です。
- 実の親が特別養子の同意をしていること
- 養親は夫婦であり、共に養親になること
- 養親が家庭裁判所に審判請求をしていること
- 養子が15歳未満であること
- 養親である夫婦が25歳以上であること(どちらかは20歳以上であること)
- 実親の監護が不当であり、子どものために特別養子縁組が必要であること
- 養子となる子どもを6か月以上養親が監護していること
- 家庭裁判所が特別養子縁組の成立を許可していること
特別養子縁組は実親の同意が求められます。しかし、虐待や暴力を子供に振るっている親から同意を得るのは容易ではありません。
しかし普通養子縁組と異なり、子供を守るための特別養子縁組であるため、家庭裁判所が養子となる子供の状況を確認し、その適否を判断してくれます。
【関連記事】相続税の非課税の限度額についてはこちら
養子縁組のメリット
養子縁組をすることで以下の4つのメリットが見込めます。
基礎控除額が増える
養子縁組をすることで基礎控除額が増えます。基礎控除額は「600万円×法定相続人+3,000万円」です。
例えば、相続人が配偶者と子供一人である場合、基礎控除額は「600万円×2人+3,000万円=4,200万円」となります。
しかし、一人養子縁組をすることで、法定相続人は3人となるため、「600万円×3人+3,000万円=4,800万円」となります。
相続税の総額が減少する可能性がある
養子縁組をすることで相続税の納税額を抑えることに繋がります。
相続税は課税遺産総額を各個人ごとの法定相続分に按分します。法定相続人が増えることで、一人あたりの按分割合が増えるため、相続税が減少します。
一人あたりの相続税額を算出した後は、税率と控除額を差し引くことで納税額が確定します。
下記の表は「法定相続人を3人の場合」と「養子縁組をして法定相続人を4人とした場合」で比較したものです。
法定相続人3人 (配偶者と子供2人) |
法定相続人4人 (配偶者と子供2人と養子1人) |
|||
遺産の合計額 | 1億5,000万円 | |||
基礎控除額 | 600万円×3人+3,000万円=4,800万円 | 600万円×4人+3,000万円=5,400万円 | ||
課税遺産総額 | 1億200万円 | 9,600万円 | ||
法定相続分割合 | 配偶者(1/2) | 子供一人あたり(1/4) | 配偶者(1/2) | 子供一人あたり(1/6) |
各人の相続額 | 7,500万円 | 3,750万円 | 7,500万円 | 2,500万円 |
控除額(配偶者控除) | 1億6,000万円 | - | 1億6,000万円 | - |
控除後相続税額 | 0円 | 2,550万円 | 0円 | 1,600万円 |
納税額 | 0円 | 374万円 | 0円 | 222万円 |
結果としては養子縁組をしたほうが、一人あたりの納税額を抑えることに繋がります。
生命保険金・死亡退職金の控除額が増える
生命保険金や死亡保険金は非課税財産となり、課税遺産総額から差し引くことができます。非課税財産は「500万円×法定相続人」で算出されます。
基礎控除額同様、法定相続人が多ければ課税遺産総額から差し引ける非課税財産も増えるため、相続税の納税額を抑えることに繋がります。
配偶者や子供以外に財産を承継させることが可能
本来、相続は配偶者や子供などの法定相続人に遺産を継承するのが通常です。
しかし、遺産を継承させたい相手がいる場合、その相手と養子縁組することで、法定相続人にすることができ、遺産を継承させることが可能となります。
養子縁組のデメリット
一方で養子縁組にもデメリットが4つ挙げられます。
相続税額の2割加算
相続人の2割加算とは、特定の方のみ相続税額が20%増えることです。
2割加算の対象となる方は「配偶者の父母」「兄弟姉妹」「祖父母」「甥や姪」などが主な該当者ですが、孫を養子とした場合も該当します。養子としての観点では、孫以外の養子に関しては、2割加算はされません。
さきほどの養子縁組のメリットで紹介した「相続税の総額が減少する可能性がある」で記載した表を確認すると、養子縁組した人の納税額は222万円でした。
この金額に20%を増やした金額が2割加算となるため、266万円となります。
結果的には法定相続人を増やすことで一人あたりの納税額が減りますが、養子縁組された人だけ納税額が増えるという点は理解しておきましょう。
相続税額が増える可能性
自分の子を養子縁組として養親に引き渡した場合は、法定相続人割合が減るため、基礎控除額も減り、相続税額が増えてしまう可能性があります。
相続争いの可能性
法定相続人が増えることで、一人あたりの納税額は減りますが、子供がもらえる遺産割合は減少します。
子供たちの立場としては、自身が継承する遺産の取り分が減ることになるため、遺産争いが起こる可能性が高くなります。
租税回避行為に該当する可能性
養子縁組をする目的の多くは、相続税の節税です。しかし、あきらかな節税目的である場合は、養子縁組を認められないケースもあります。
過去に「節税目的の養子縁組はただちに無効ではない」という判決が出た事例が平成29年にありました。
とはいえ、節税可能金額の基準が設定されていないのも現状です。そのため、養子縁組をして相続税の節税を図る際は、税理士などの専門家に相談してから行いましょう。
【関連記事】相続に税理士は必要?税理士の必要なケースと選び方はこちら
まとめ
これまで養子縁組のメリット・デメリット、普通養子縁組と特別養子縁組の内容について解説してきました。
普通養子縁組と特別養子縁組の目的は異なりますが、相続税の節税効果は同じとなります。
しかし、養子縁組には2割加算などのデメリットもあるため、本当に相続税の節税効果があるか計算してから行うべきです。
相続税の計算は知識がなければ非常に難しい内容です。そのため税理士などの専門家に相談をして養子縁組を検討するようにしましょう。
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