相続放棄
相続放棄しても未支給年金は受け取れる?受け取り方法や注意点を解説
年金を受給していた家族が亡くなった場合、タイミングによっては未支給年金が発生することがあります。
もし、故人の借金などを理由に相続放棄した場合、未支給の年金はどうなるのでしょうか?
この記事では、相続放棄した場合に未支給年金を受け取れるのか、また、請求の流れや注意点についてわかりやすく解説していきます
未支給年金以外に受け取れるお金についても解説していますので、相続放棄を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
未支給年金は相続放棄しても受け取れる
未支給年金は、相続放棄しても受け取ることができます。
相続放棄は、故人の財産を引き継ぐ権利をすべて放棄する手続きです。
「未支給年金は故人が生前に受給するはずだった年金なので、相続放棄すると受け取れないのでは?」と考える方も多いかもしれません。
しかし、未支給年金は故人の「相続財産」ではなく、遺族がもともと持っていた「遺族固有の財産」とみなされます。
そのため、相続放棄で故人の財産を放棄しても、遺族自身の財産として未支給年金を受け取ることができるのです。
国民年金法では、未支給年金について次のように定めています。
(未支給年金)
第十九条 年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。
また、裁判では、未支給年金を請求する権利について「相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたもの」として、遺族固有の権利であることを認めた判例もありました
そのため、相続財産にあたらない未支給年金は、遺産分割の対象にもならず、相続放棄しても受け取ることが可能です。
【参考】裁判例結果詳細|裁判所
生計を共にしていた3親等以内の親族であれば受け取れる
未支給年金を受け取れるのは、亡くなった方の「配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族」で、かつ「死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの」に限られます(国民年金法19条1項)。
また、未支給年金を受け取れる権利は、以下のように順番が決まっています。
- 1位 配偶者
- 2位 子ども
- 3位 父母
- 4位 孫
- 5位 祖父母
- 6位 兄弟・姉妹
- 7位 その他の3親等以内の親族
第1順位の配偶者が未支給年金を請求する場合、第2順位以降の方は請求をおこなうことができません。
また、同順位の受取人が複数いる場合には、代表者がまとめて請求をおこなう必要があり、個別に請求はできないものとされています。
上記のように順番が決まっていますが、亡くなった方と同一生計ではない場合には、順位が上の配偶者や子どもであっても未支給年金を受け取れませんのでご注意ください。
【参考】国民年金法|e-Gov法令検索
繰り下げ受給をしていた場合も年金を受け取れる
年金には、繰り下げ受給という制度があります。
年金は基本的に65歳から受給が開始されますが、65歳から年金を受け取らず、66歳から75歳までの間で年金受給開始を繰り下げることができ、繰り下げ受給をおこなうと、一定の増額率に基づいて、もらえる年金額を増額できます。
被相続人がこの繰り下げ受給をしている場合も、未支給年金を請求できることがあります。
たとえば、繰り下げ受給をおこなっていて、まだ年金の受給が開始されていなかった場合、繰り下げ受給をしなければ受け取っていたであろう年金額を遺族が受け取ることができます。
繰り下げ受給で70歳から受給をスタートすることになっていたものの68歳で亡くなったのであれば、繰り下げ受給しなかった場合の65歳から68歳までの年金を未支給年金として請求できるというわけです。
【参考】年金の繰下げ需給|日本年金機構
企業年金や個人年金を受け取ると相続放棄できなくなるので注意
相続放棄後でも受け取れる年金は、老齢年金や障害年金などの公的年金に限られます。
企業年金や個人年金などの私的年金については、相続放棄すると受け取れません。
私的年金は、遺族固有の財産ではなく「相続財産」とみなされるからです。
そのため、相続放棄前後で企業年金や個人年金を受け取ってしまうと、単純承認をしたとみなされ、相続放棄できなくなってしまう可能性があるので、注意してください。
未支給年金を請求する流れ
未支給年金の請求は、年金事務所や年金相談センターへ必要書類を提出しておこないます。
提出書類に不備があると、追加の書類を提出する必要があるなど余計な手間がかかりますので、あらかじめ必要書類をしっかりと確認しておくようにしましょう。
ここでは、未支給年金の請求で必要となる主な書類をご紹介します。
必要書類を準備する
未支給年金の請求をする場合に必要となる書類は、「死亡の届出に必要な書類」と「未支給年金の請求に必要な書類」の2つに分けることができます。
それぞれで必要になる具体的な書類は、以下のとおりです。
【死亡の届出に必要な書類】
- ● 受給権者死亡報告書
- ● 個人年金証書
- ● 死亡を確認できる書類(住民票除票、戸籍抄本、死亡届や死亡診断書の写しなど)
【未支給年金の請求に必要な書類】
- ● 未支給年金・未支払給付金請求書
- ● 故人名義の年金証書
- ● 故人と請求者との間柄がわかる書類(戸籍謄本など)
- ● 故人の住民票除票の写し
- ● 請求者の世帯全員の住民票の写し
- ● 未支給年金を受け取りたい金融機関の通帳
- ● 生計同一に関する申立書(故人と受取人が別世帯の場合)
必要書類は個々のケースによって異なる場合があるため、ねんきんダイヤルや年金事務所にあらかじめ確認しておくことをおすすめします。
なお、受給権者死亡届(報告書)や未支給年金・未支払給付金請求書などは、日本年金機構のホームページでダウンロードできます。
年金事務所や年金相談センターへ提出する
必要書類を揃えたら、お近くの年金事務所もしくは年金相談センターに書類を提出してください。
管轄の年金事務所は「全国の相談・手続き窓口|日本年金機構」で探すことができます。
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未支給年金を請求する際の注意点
未支給年金を請求する際は、以下の4つのことにご注意ください。
- ● 未支給年金には所得税がかかることがある
- ● 死亡届を遅れて提出すると不正受給となる可能性がある
- ● 未支給年金の請求には5年の時効がある
- ● 故人の口座に振り込まれると引き出しできなくなる
対応を誤ると不正受給と疑われたり、受け取れなくなったりすることもあるので、しっかりと頭に入れておきましょう。
未支給年金には所得税がかかることがある
未支給年金には所得税がかかることがあります。
前述したように、未支給年金は相続財産ではないため、相続税はかかりません。
しかし、所得税の課税区分である「一時所得」にはあたるため、必要に応じて所得税の確定申告をおこなう必要があります。
なお、一時所得には50万円の特別控除が適用されます。
そのため、生前故人が定期的に年金を受け取っていて、遺族が受け取れる未支給年金の額が50万円以下であれば、所得税は課税されません。
未支給年金が1ヶ月分だけの場合などは、所得税がかからない可能性が高いでしょう。
一方で、年金の繰り下げ受給を利用していて、数年分の年金が未支給になっている場合には、受け取れる未支給年金額が50万円を超えてしまい、所得税の課税対象となる可能性が高くなります。
未支給年金の金額によっては所得税がかかることを、しっかりと頭に入れておきましょう。
死亡届を遅れて提出すると不正受給となる可能性がある
死亡届の提出が遅れてしまい、亡くなったあとに年金を受給してしまうと、不正受給とみなされてしまう可能性があります。
年金受給者が亡くなったら年金の振り込みをストップするために、年金事務所に死亡届を提示しなければなりません。
死亡届の提出が遅れてしまい、本来受け取れるはずのない年金が振り込まれた場合、その分は速やかに返還手続きをおこなう必要があります。
もし、年金事務所からの返還に応じることなく、振り込まれた年金を使い込んでしまうような悪質な対応をすると、不正受給として罰則が科される可能性があるため、注意が必要です。
不正受給とみなされないためにも、年金受給者が死亡したら、なるべく早めに死亡届を年金事務所に提出しましょう。
未支給年金の請求には5年の時効がある
未支給年金の請求権には5年の時効があり、期限を過ぎると年金を受け取れなくなることに注意しましょう。
具体的な請求期限は、「年金が未支給の状態になってから5年後の支払日の翌月初日まで」です。
たとえば、6月の支払日で時効を迎える場合には、翌月の7月1日に時効になります。
時効になると未支給年金を受け取ることができなくなるため、年金受給者が亡くなった場合には、なるべく早めに請求をおこなうようにしましょう。
故人の口座に振り込まれると引き出しできなくなる
未支給年金が故人の口座に振り込まれた場合、振り込まれた年金を引き出せなくなる可能性があります。
銀行は口座の名義人が死亡したとわかると、悪用されないよう、その口座を凍結するからです。
もし、未支給年金が故人の口座に振り込まれたあとに口座が凍結されてしまった場合には、相続放棄をしている遺族は、そのお金を引き出せなくなってしまいます。
未支給年金を請求する際には、振込先の口座や口座凍結後の振り込みについて、十分に注意してください。
相続放棄しても未支給年金以外にもらえるお金
相続放棄すると、すべての遺産を受け取れなくなるのが原則です。
ただし、未支給年金のように相続財産ではなく遺族固有の財産だと認められる場合には、相続放棄後でもそのお金を受け取ることができます。
相続放棄後に受け取れるお金の例としては、以下のようなものが挙げられます。
遺族年金
支払いをしていたのが故人だった場合でも、遺族が自身の名義で受け取ることができます。
故人が受取人以外の死亡保険金
故人が受取人になっている死亡保険金は、相続財産に該当します。しかし、受取人が故人以外であれば、受取人固有の財産として、相続放棄後でも受け取ることができます。
受取人が指定されていなかった場合、法定相続人を受取人にする旨の規定が定められていれば、相続放棄をした法定相続人も死亡保険金を受け取ることができます。
受取人が遺族に指定されている未払い給与や死亡退職金
未払いの給与や死亡退職金については、基本的に相続財産に該当します。ただし、会社の就業規則等で受取人は遺族であることが明記されていれば、受取人が相続放棄しても受け取ることができます。
祭祀財産(さいしざいさん)
祭祀財産(お墓や仏壇など)については「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」のが原則で、相続放棄の対象にはならないとされています。
香典
香典は、葬儀を主宰した喪主に対して支払われる性質のお金です。したがって、相続財産ではなく、喪主固有の財産として扱われます。
まとめ
未支給年金は、「故人の財産」ではなく「遺族固有の財産」にあたるため、相続放棄後でも受け取ることができます。
請求は、必要書類を年金事務所や年金相談センターへ提出することでおこないますが、受け取りまでに2〜3ヶ月かかるケースが多いです。
未支給年金には所得税がかかる点や、請求権に時効があることも忘れてはいけません。
また、未支給年金以外でも、相続放棄後に受け取れるお金はいくつかあります。
請求し忘れてしまわないよう、何が請求できるのかをあらかじめ確認しておくようにしましょう。
相続放棄を検討している方は、司法書士などの専門家に相続放棄の相談を行い、その際に未支給年金についても確認することをおすすめします。
専門家から適切なアドバイスをもらうことで、相続放棄後に受け取れるお金、受け取れないお金を正しく把握でき、最後まで適切な対応ができるはずです。
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