相続放棄
借地権は相続放棄するメリット・デメリットや注意点を解説
借地権付きの家を相続すると、地主への地代や更新料の支払い、建物にかかる固定資産税などの各種費用がかかります。そのため、できれば相続放棄したいという方も多いでしょう。
法律上、借地権の相続放棄は可能です。一方で、建物を解体すると相続放棄できなくなったり、場合によっては土地の保存責任だけ残ってしまったりすることもあるため、注意が必要です。
この記事では、借地権の相続放棄について、メリットやデメリット、注意点や相続放棄以外で借地権を処分する方法などについて、詳しく解説していきます。
目次
借地権は相続財産に含まれるため相続放棄できる
借地権も亡くなった方の相続財産に含まれます。
そのため、相続放棄で借主としての地位を引き継がないことが可能です。
借地権は権利であり、預貯金や不動産のように目に見えるものではありませんが、法律上は経済的な価値のある財産とみなされ、相続財産に含まれます。
そのため、土地を借りている人が亡くなった場合、相続人は、預貯金と同じように借主としての地位を相続することになります。
そもそも借地権とは?
借地権とは、建物の所有を目的に、地主(土地所有者)から土地を借りる権利のことを指します。
借地権には、大きく分けて「賃借権」と「地上権」があり、賃料を支払って土地を借り受けるのが賃借権で、地上権は、他人の土地に対して強い支配力を有し、地主の許可なく建物を貸し出したり、売却できたりするメリットがあります。
ただし、地主が不利になる地上権をわざわざ設定するケースは少なく、多くの場合で賃借権が設定されます。
賃借権と地上権はどちらも相続の対象で、相続放棄をすれば権利を引き継がないこともできます。
借地権を相続放棄する3つのメリット
借地権は、土地の上に建っている建物を有効活用するために重要な権利です。
一方、被相続人が有効活用していたものの、相続人はそれを考えておらず、そもそも建物を引き継ぎたくないのであれば、借地権を相続放棄したいと考えることもあるでしょう。
ここでは、借地権を相続放棄する3つのメリットを確認していきます。
1.費用を節約できる|地代・更新料・各種税金・解体費用など
借地権を放棄すれば、地主への賃料・更新料、建物の固定資産税の税金などの、土地を利用するためにかかる各種費用を節約できます。
借地権を相続放棄すれば、その土地の借主としての地位を受け継がなくなるので、土地利用にかかる費用を支払う必要はありません。
借地権を相続した場合にかかる費用として、たとえば次のようなものがあります。
- >地主への地代、更新料
- >建物にかかる固定資産税や相続税などの各種税金
- >建物を売却したりリフォームする際にかかる地主の承諾料
- >建物を解体するためにかかる費用 など
相続放棄すれば、これらの費用が全てかからなくなるので、経済的なメリットが大きいといえるでしょう。
2.建物を管理したり売却したりする手間を省ける
建物の管理や売却にかかる手間や時間を省けるのも、借地権を相続放棄する大きなメリットの1つです。
相続放棄は、相続財産の全てを放棄する手続きです。土地の借主としての地位はもちろん、建物の管理責任や解体して土地を地主に返還する義務もなくなります。
自分で管理する手間を省けるだけではなく、管理会社に管理を委託する際にかかる手数料などもかからなくなるので、コストを大幅に削減できるでしょう。
建物と土地の借地権を相続すれば、建物に居住したり、建物の賃貸・売却などで利益を得ることも可能ですが、管理にかかる手間や費用がかかるのは避けられないことから、土地や建物を有効活用する予定がないのであれば、相続放棄するメリットは大きいといえます。
3.地主やほかの相続人とのトラブルを避けられる
借地権を相続放棄すれば、地主やほかの相続人とのトラブルを避けられます。
地主と地代や更新料の交渉、立ち退きに関する話合いなどで揉める可能性もあり得ます。
また、相続した建物を誰が所有するのか、管理・解体にかかる費用は誰が負担するのかなど、相続人同士の争いに巻き込まれることもなくなります。
相続放棄をすることで、このような地主やほかの相続人とのトラブルを避けられるのは、相続人にとって大きなメリットだといえるでしょう。
相続や遺言の
無料相談受付中!
-
電話での無料相談はこちら
0120-243-032
受付時間 9:00~18:00
(土日祝日の相談は要予約) -
メールでの
無料相談はこちら
借地権を相続放棄する2つのデメリット
建物や土地を相続したくないからといって安易に相続放棄はしないほうが良いでしょう。
相続放棄を検討しているのであれば、借地権を相続放棄するメリットだけでなく、デメリットも理解して慎重に判断しましょう。
ここでは、借地権の相続放棄における2つのデメリットについて解説していきます。
1.ほかの財産価値があるものを含め全財産を相続できなくなる
借地権を相続放棄すると、被相続人が残した資産も相続できなくなります。
預貯金や不動産、そのほか価値のある財産など、亡くなった方の財産すべてを放棄することになります。
借地権だけを相続放棄することはできません。
預貯金や不動産、そのほか価値のある財産など、亡くなった方の財産すべてを放棄することになり、ほかに財産価値があるのに相続放棄すると、金銭的に損をする可能性があります。
相続放棄をする前に相続財産の調査を入念におこない、プラスの財産(資産)とマイナスの財産(負債)がどれくらいあるのかを正確に把握してから、判断することが重要です。
借地権だけを相続したくないのであれば、相続放棄以外の方法で借地権を手放すことを考えても良いかもしれません。
詳しくは、後述する「相続放棄以外で借地権を処分する3つの方法」をご確認ください。
2.土地活用による利益は得られなくなる
建物や土地を手放すことで、土地活用による利益を得られなくなる点も、借地権を相続放棄するデメリットです。
建物を賃貸物件として貸し出すことで、毎月賃料として定期収入を得られますし、地主の許可を得て建物を売却すれば、まとまった収入を得ることも可能です。
もちろん、リフォームしてそこに居住することもできるでしょう。
これらのメリットを一切受けられなくなってしまうのは、相続人にとってマイナスになってしまうこともあるでしょう。
建物が立っている場合は解体して更地に戻す義務はない
相続放棄をする場合、土地の上に建っている建物を解体して更地に戻す必要はありません。
借地権には、期間が満了した際に土地を更地にして返還する義務が課されています。
そのため、借地権を相続した場合には、「期間満了後の更地返還の義務」により、土地を返還する際に建物を解体する手間やコストが発生する可能性があります。
一方、相続放棄をすれば、建物を引き継がないのはもちろん、土地の借主としての地位を引き継ぐこともありません。
つまり、借地上にある建物とは無関係となるため、更地にする必要はないのです。
そのため、相続放棄をするなら「解体費用が払えない」という不安を抱かなくても大丈夫です。
借地権を相続放棄する際の2つの注意点
相続放棄すれば、借りている土地や建物について何ら対応をする必要がなくなるのが原則ですが、場合によっては土地の保存責任(管理義務)が残ってしまう可能性があります。
また、建物に手をつけてしまうと相続放棄できなくなってしまう可能性もあります。
相続放棄で損をしないようにするためにも、これから説明する2つの注意点をしっかり理解しておきましょう。
1.相続放棄しても場合によっては保存責任が残る
相続放棄をすれば、被相続人の財産を管理する義務もなくなるのが原則です。
しかし、相続放棄の時点で、「相続財産に属する財産を現に占有している場合」に当てはまるのであれば、、その財産を適切に保存する義務が課されます(民法940条1項)。
「現に占有している」とは、一般的にみて、その財産を支配している状態のことを指します。たとえば、借地上に建てられた被相続人名義の持ち家に、被相続人と一緒に住んでいた場合などが挙げられるでしょう。
保存義務が課せられるのは、その相続財産を、ほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまでです。
【参考】民法|e-Gov法令検索
2.建物に手を加えるなど単純承認とみなされる行為をしない
相続放棄を検討しているなら、単純承認とみなされる行為はしないよう、注意してください。
単純承認とは、遺産を無条件で引き継ぐことを認めることです。
相続財産を管理・処分する権限を有していないにもかかわらず、勝手に建物や土地に手を加えた場合、相続放棄をする意思はないものとみなされる可能性があります。
たとえば、地主に気を遣って建物を処分したり、更地に戻したりする行為は、単純承認に該当して相続放棄が認められなくなる可能性があります。
勝手にリフォームや建替えをするのもNGです。
また、不動産に関係なく、被相続人の預金を使ったり、債務の支払いをしたり、遺品を整理することなども単純承認に該当する可能性があるため、相続放棄をするのであれば、相続財産には一切手をつけないようにしましょう。
相続放棄以外で借地権を処分する3つの方法
預貯金やほかの不動産などの資産が大きいものの、建物を有効活用する予定がない場合、手間やコストを省くために、借地権だけを相続放棄したいと考えることもあるでしょう。
一方、相続放棄では、借地権だけではなくほかの資産も手放すことになってしまうため、借地権だけを処分することはできません。
その場合、これらから説明する3つの方法を検討してみると良いでしょう。
1.第三者に建物のみを売却する(借地権を譲渡する)
借地上に建っている建物を売却できれば、それに付随して借地権を譲渡できるため、結果として借地権だけを処分できます。
つまり売買仲介業者、不動産買取業者などを通して建物を第三者に売却する方法です。借地権を手放すのと同時に、建物の売却益を得られることは、相続人にとって経済的なメリットが大きいでしょう。
一方、借地権付きの建物を売却する場合は借地権を買主に譲渡することになるため、基本的に地主の許可が必要です。もし、地主が協力的ではない場合には、売却手続きがスムーズに進まない可能性もあるでしょう。
また、地主と合意のうえ、建物を買い取ってもらうことも可能です。第三者に売却するよりもスムーズに手続きを進められますが、反面、建物の解体費用やリフォーム費用を請求されてしまう可能性があるため、経済的に得をするのかどうかを慎重に判断する必要があります。
第三者に建物を売却する場合、売買仲介業者を通すよりも、建物をそのまま買い取ってくれる不動産買取業者に依頼した方がスピーディーです。
しかし、その分、買取価格は下がる傾向にあります。いくらで売却したいのか、いつまでに売却代金が欲しいのか明確にしたうえで、自分に適した売却方法を選択しましょう。
2.地主と協力して家と土地を一緒に売却する
地主と協力できるような関係性であれば、家と土地をセットで売却する方法もおすすめです。
借地上の家を売却する場合、建物の所有権は得られるものの、土地は借りることになってしまうのがネックで、買い手がなかなか現れないことがあります。
この点、土地(地主が持っている権利)と家(自分が持っている権利)をセットで売り出せれば、スムーズに売却できる可能性が高まります。
また、セット売りの方が需要が高いことから、土地と家を別々で売るよりも、高額で売れるケースもあるでしょう。
とくに、借地権の残存期間が短い場合、建物だけを購入しても住宅ローンの審査が通らないことがあり、買い手が敬遠してしまう可能性があります。
そのため、できれば土地と家をセットで売却する方が、経済的なメリットは大きいといえるでしょう。
3.建物を解体して更地にしたうえで地主に返還する
売却が難しそうであれば、建物を解体して更地にしたうえで、土地を地主に返還することも検討しましょう。
解体費用はかかりますが、有効活用できない建物を所有しているデメリットを考えると、更地にして返還した方がメリットが大きい場合があります。
たとえば、次のようなケースでは、建物の解体を検討すると良いでしょう。
- 家が古く、居住用物件や賃貸物件にするには改修が必要
- 遠方に住んでいて管理が難しい
- 借地権の売却が難しい など
土地を返還すれば、地代・更新料の支払いや、不動産の管理にかかる手間を省けるなどのメリットがあります。
そのまま建物を所有していることのデメリットや、解体して更地にして返還するメリットを比較したうえで、自分にとって損をしない方法を選択しましょう。
まとめ
被相続人が借地に建てた家を相続をしたくないのであれば、相続放棄で手放せます。
地代や更新料の支払い、管理の手間を考えると、借地権を相続放棄するメリットがあるケースも多いでしょう。
一方、相続放棄すると、被相続人の財産全てを引き継ぐことができなくなってしまうので、多額の資産がある場合には、経済的に損をしてしまう可能性も頭に入れておかなくてはいけません。
「借地権を相続したくない」という理由だけで安易に相続放棄を決めるのではなく、相続するメリットと相続放棄するデメリットをしっかり比較したうえで、損をしない選択をしましょう。
もし、相続放棄すべきか自分で判断できない場合には、専門家である司法書士にご相談ください。司法書士法人みつ葉グループでは、相続の無料相談を実施していますので、お気軽にお問い合わせください。
カテゴリ