相続放棄
相続放棄後に預金を引き出したらバレる?相続放棄が認められるケースを紹介
亡くなった親族に借金があり相続放棄をした場合、その相続人は相続財産を処分する権利を失います。
とはいえ、親族が亡くなったあとは、それまでの入院費用や葬儀費用の支払いなど、何かとお金がかかるケースが多いです。
相続財産である預貯金から支払いたいと考えることもあるでしょう。
しかし、相続財産に手をつけ、それがバレると、相続放棄ができなくなってしまったり、ほかの相続人から財産の返還請求を受けてしまったりする可能性があります。
この記事では、相続放棄後に相続財産に手をつけた場合について、バレた際のリスクや、相続財産に手をつけても相続放棄が認められるケースなど詳しく解説していきます。
目次
相続放棄後に相続財産に手をつけたことはバレるのか
相続放棄後に相続財産に手をつけると、ほかの相続人や被相続人が借金していた債権者にバレる可能性が非常に高いです。
相続をした相続人は、被相続人の口座がある金融機関に過去の入出金履歴を開示請求できます。
つまり、相続放棄をした人が勝手にお金を引き出していた場合には、入出金履歴から簡単に不正がバレてしまうのです。
また、相続人が全員相続放棄をして最終的に相続する人がいなくなった場合、被相続人の債権者は、家庭裁判所に申し出ることで「相続財産清算人」を選任できます。
この相続財産清算人は、相続財産を適切に管理・分配するために財産調査をおこなうため、預貯金口座の履歴なども入念に確認します。
その結果、不正な銀行口座からの引き出しがあれば、簡単にバレてしまうでしょう。
さらに、「弁護士会照会」や「文書送付嘱託」と呼ばれる調査方法によっても、相続放棄後の不正な引き出しがバレる可能性があります。
弁護士会照会とは、弁護士会を通して弁護士がおこなう照会制度です(弁護士法第23条の2)。
また、文書送付嘱託とは、裁判所を通じておこなう、文書を開示するよう要請する手続きを指します(民事訴訟法第226条)。
どちらの手続きにおいても、被相続人の預金口座の入出金履歴を調査することが可能です。
そのため、ほかの相続人や被相続人の債権者と争いになるなどで、弁護士や裁判所から預金口座の照会を受けてしまうと、不正な銀行口座からの引き出しがバレる可能性があります。
このように、預金口座からの引き出しはバレる可能性の高い行為です同様に、一般的に財産価値のある遺品を勝手に処分する行為も、相続放棄する上で危険な行為といえます。
とくに相続財産を「現に占有」している相続人には、それらの財産を適切に保存する義務が課されています(民法第940条)。
相続放棄した人が勝手に遺品整理(処分・売却など)をした場合には、基本的に管理義務のあるほかの相続人にバレ、単純承認となってしまいます。
相続放棄した人が預金口座からお金を引き出したり、勝手に遺品の処分・売却をおこなったりする行為は、基本的にはほかの相続人にバレてしまうものと心得ておきましょう。
関連記事:相続放棄する人がやってはいけないこととは?具体例やおこなっても良いこと、対処法などを解説
【参考】弁護士法|e-Gov 法令検索
【参考】民事訴訟法|e-Gov 法令検索
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続放棄後に相続財産に手をつけたことがバレるとどうなる?
預金の引き出しや相続財産の処分など、相続放棄後に相続財産に手をつけたことがバレた場合、相続放棄ができなくなったり、ほかの相続人から手をつけてしまった財産の返還請求を受けたりする可能性があります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
相続放棄できなくなる
相続放棄をしたにもかかわらず相続財産に手をつけた場合には、単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなります。
単純承認とは、亡くなった人(被相続人)の財産を無条件で引き継ぐ行為です。
民法においては、「相続財産の全部または一部を処分したとき」(民法921条1号)や「相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費」(同条3号)したときには、たとえ相続放棄をしたあとであっても、相続したものとみなされると規定されています。
相続放棄後に被相続人の預貯金を勝手に引き出して消費した場合には同条3号に、勝手に遺品を処分した場合には同条1号に該当して、単純承認が成立する可能性があるのです。
預貯金の引き出し行為はもちろん、相続財産である不動産・車・財産的価値のある家財の処分や、被相続人名義の株式・クレジットカードに手を出す行為は、基本的にすべて単純承認とみなされる可能性があります。
単純承認とみなされた場合、一旦おこなった相続放棄も一切認められなくなります。
借金を含めた相続財産をすべて引き継ぐことになってしまうため、くれぐれも注意してください。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続人から不当利得返還請求される可能性がある
相続財産を処分する権利がないにもかかわらず、勝手に財産を処分すると、ほかの相続人から手をつけた分の財産の返還を請求される可能性があります。
この返還請求は、法律上「不当利得返還請求」(民法703条、704条)と呼ばれています。
不当利得返還請求とは、法律上の原因なく不当に利益を得た人に対し、それによって損失を被った人が、その利益の返還を請求する手続きです。
相続放棄をしたにもかかわらず、被相続人の預貯金を引き出す行為は、法律上の原因がないにもかかわらず不当に利益を得ているといえます。そのため手をつけた分の財産を返還する必要があるのです。
この場合、もし相続放棄した人が自身に相続財産を処分する権限がないことを知っていた場合には、手をつけた財産だけでなく、利息分も上乗せして返還する義務を負ってしまうかもしれません。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
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相続財産に手をつけても相続放棄が認められるケース
先述したように、相続放棄後に相続財産に手をつけたら、相続放棄は認められないのが原則です。
ただし、以下3つのケースでは、相続放棄後に相続財産に手をつけたことがバレたとしても、例外的に相続放棄が認められる可能性があります。
相続財産に手をつけても相続放棄が認められる4つのケース |
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ここからは、それぞれのケースについて詳しく解説していきます。
1.被相続人の葬儀費用
相続財産から亡くなった人の葬儀費用を支払っても相続財産の処分には当たらず、相続放棄をおこなえます。
「葬儀は、人生最後の儀式として執りおこなわれるもので、社会的儀式として必要性が高いにもかかわらず、必ず相当額の支出を伴うものであることから、相続財産からの支払いが認められる」と、過去の裁判でも認められています(大阪高裁2002年7月3日判例)。
また、葬儀における参列者からの香典は、遺産ではなく葬儀を執りおこなう喪主への贈与財産とみなされるため、香典から葬儀費用を支払うことも問題ありません。
ただし、葬儀費用の支払いが相続財産の処分には当たらなくても、あくまで常識的な規模の葬儀に限られます。
一般的・社会的に見てあきらかに高額な葬儀費用を支払った場合には、相続財産を処分したとみなされる可能性があるため注意が必要です。
なお、墓石や仏具に関しては、一般的に高額とはいえない程度の支払いであれば、相続財産の処分には当たらないとされた裁判例があります。
一方で、そもそも「一般的に高額とはいえない」という範囲の定義が非常に曖昧ともいえます。
むやみに手をつけて相続放棄が認められなくなると、被相続人の借金までをも背負ってしまうことにもなりかねません。墓石や仏具に関しては、相続財産からの支払いは避けたほうが無難といえるでしょう。
2.財産価値のない遺品の整理
被相続人の遺品だとしても、一般的に見て財産価値のないものであれば、処分や整理、形見分けをしても、相続財産の処分には該当しません。
たとえば、被相続人の手紙や写真については、手紙や写真そのものに価格があるわけではなく、手紙や写真に対する「思い出」に価値があるものです。
そのため、法律的に財産価値のあるものとは認められず、相続放棄後に独断で処分や形見分けをしたことがバレたとしても、相続財産の処分には当たりません。
また、被相続人が生前身につけていた衣服なども、特別財産価値がないものであれば、処分したり形見分けをしたりしても問題ないとされています。
ただし、高価なアクセサリーやハイブランドの衣服・革製品などは、法律上財産価値があるとみなされ、財産処分の対象となってしまう可能性があります。
整理したい遺品に財産価値があるかどうか判断が難しい場合には、専門家に相談するか、買取の査定などをおこない財産価値があるかどうかを調べてみるのがよいでしょう。
3.預金を引き出した「だけ」で消費・隠匿していない
被相続人の預貯金を使う行為は、相続財産の処分に該当します。
しかし、預金口座からお金を引き出しただけで、使用したり隠し持ったりしていないのであれば、単純承認の要件である「相続財産の消費・隠匿」(民法921条3号)には該当せず、
相続財産を処分したとはいえません。
一方で、引き出したお金を1円でも使用したり、自身の口座に移したりしてしまうと、「相続財産の消費・隠匿」に該当してしまい、相続放棄が認められなくなってしまいます。
そもそも、たとえ使う気がなかったとしても、口座からお金を引き出したことがバレた時点で、「そのお金を使うつもりがあったのではないか」と疑われてしまう可能性はあるでしょう。
引き出したお金を使う気がないのであれば、そもそも預金口座からお金を引き出す行為は避けることが無難です。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
まとめ
相続放棄後に、被相続人の預金口座からお金を引き出したり遺品を処分したりする行為は、ほかの相続人や被相続人の債権者にバレる可能性が非常に高いです。
また相続財産に手をつけたことがバレてしまうと、相続放棄が認められなくなってしまったり、手をつけた財産の返還を請求されてしまったりするおそれがあります。
葬儀費用などは、相続財産の処分に該当しない可能性がありますが、具体的にどのようなケースであれば相続財産の処分が認められるかは、法律的・専門的な判断が必要です。
相続放棄後の財産処分について判断が難しい場合には、専門家に1度相談してみることをおすすめします。
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