相続放棄
相続放棄をしたら固定資産税はどうなる?払ってしまった場合の対処法や注意点
土地や建物といった固定資産を相続して所有者となった場合、その不動産に対して課税される「固定資産税」を支払う必要があります。
一方で相続放棄をした場合、不動産の所有者になることを放棄するため、固定資産税を納税する義務も発生しないのが原則です。
しかし、相続放棄をしているにもかかわらず、固定資産税の支払い義務が発生することもあります。
この記事では、相続放棄後に固定資産税を支払う必要があるケースや、相続放棄したのに納税通知がきた場合の対処法、固定資産税を支払ってしまった場合の還付請求の方法などについて、わかりやすく解説していきます。
目次
固定資産税とは?
固定資産税とは、不動産(土地や建物)や償却資産(工場の機械や会社の備品)といった、固定資産を所有していることに対して課される税金のことです。
固定資産税の納税義務者は原則として、毎年1月1日時点で、各市区町村が作成する固定資産課税台帳に、その固定資産の所有者として登録されている人となります(地方税法343条第1項)。
固定資産税は、固定資産ごとに課税されるのが基本です。
たとえば、土地と共に一戸建を所有している場合には、家屋部分と土地部分のそれぞれに課税されることとなります。
固定資産税の支払いは、毎年行う必要があります。
所有者として固定資産課税台帳に登録されていると、毎年4〜6月ごろを目処に納税通知書が届きます。
支払いは、第1期〜第4期の年4回でおこなうことが多いですが、納付期限は市区町村によって異なり、納付期限を納税通知書などで確認することができます。
相続放棄したら原則として固定資産税を支払わなくていい
相続放棄をした場合、ほかの財産と同様に固定資産の所有権を引き継ぐことはありません。固定資産税の納税義務者として固定資産課税台帳に登録されないため、納税義務が発生しなくなります。
相続放棄は「自己のための相続開始があったことを知った日から3ヶ月以内」に行う必要がありますので、固定資産を相続放棄をし、固定資産税の支払いも回避したいのであれば、この期間内にしっかり財産調査をおこない、相続放棄をしましょう。
ただし、一度相続放棄をしてしまうと、相続放棄の撤回や取消しは基本的に認められませんので、ご注意ください。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
相続放棄しても固定資産税を支払う必要があるケース
先述したとおり、相続放棄をしたら原則として固定資産税を支払う必要はありません。
しかし、その年の1月1日時点で亡くなった方が固定資産課税台帳に所有者として登録されている場合には、たとえ相続放棄をした場合であっても、納税義務者として支払い義務が発生します(地方税法第343条第1項)。
課税台帳に登録されているのであれば、真の所有者でなくとも課税されてしまうことを「台帳課税主義」と呼びます。
固定資産税の支払いにおいては、相続放棄の手続きよりも、この「台帳課税主義」が優先されます。
たとえば、固定資産を相続しないために相続放棄の申述を12月中におこなったものの、裁判所に申請を受理されたのが翌年2月だった場合には、1月1日時点では相続放棄手続きが完了していません。
このようなケースでは、市区町村は、固定資産の所有者が亡くなっているため、法定相続人が固定資産を相続すると推定して固定資産課税台帳に登録することがあります。
このように、相続放棄が完了しておらず、1月1日時点で亡くなった方が固定資産の所有者として登録されているため、納税義務が発生することがあるのです。
一方で相続放棄の申述が年内に受理されていれば、固定資産税の賦課期日である翌年の1月1日時点ではすでに相続人から除外されていることから、納税義務も発生しません。
【参考】地方税法|e-Gov 法令検索
相続放棄したのに固定資産税の請求がきた場合の対処法
前の章で説明した理由などから、相続放棄をしたにもかかわらず、固定資産税の支払い通知書が届いてしまうことがあります。
その際は、以下の方法で対処してください。
相続放棄したのに固定資産税の請求がきた場合の主な対処法 |
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なお、固定資産税の支払い通知が届いているにもかかわらず、「相続放棄をしたから支払う必要はない」と無視するのはやめましょう。
固定資産課税台帳にあなたが記載されている以上、あなたへの請求が続き、無視をしているとトラブルになり、最悪の場合は財産を差し押さえられる恐れがあります。
固定資産税の請求がきたら、以下を参考にきちんと対処してください。
1.立替払いをして事後求償をおこなう
1つ目の対処法は、通知書にしたがって支払い、あとから固定資産を相続した本来の納税義務者に対して支払った金額を請求する方法です。
納税義務者として固定資産税の納税通知が届いている以上、たとえ相続放棄をしている場合でも、あなたに支払い義務が発生しています。
しかし本来であれば、その固定資産を相続した所有者に固定資産税の支払い義務が生じるはずです。
そのため、あなたが立替払いをし、あとから本来の納税義務者である相続人に、立替した分の固定資産税相当額を請求するということです。
本来の納税義務者に対して立替した固定資産税相当額を請求する権利を「求償権」と呼び、法律で認められている正当な権利です。
この権利を利用することで、タイムラグはあるものの、立て替えた分の固定資産税相当額を回収できる可能性があります。
本来の納税義務者に何の説明もなしにいきなり固定資産税相当額を請求すると、状況を把握できていないことからトラブルに発展する可能性も考えられます。
あなたが納税通知に従って支払う前に、相続した人と話をし、理解してもらった上で求償しましょう。
2.相続放棄をしない相続人に名義変更をしてくれるよう促す
相続放棄をすると不動産の名義変更はできませんし、相続放棄をしない他の相続人の名義変更の手続きに関与することも口出しすることもできません。
ただし、相続放棄をしない相続人に名義変更をしてくれるよう促すことで対処できる可能性があります。
固定資産税の納税義務者は、原則として固定資産課税台帳に登録されている人となっています。
相続放棄をしても、裁判所から各自治体に連絡がいくわけではないので、固定資産課税台帳に登録されている名義を変更しない限り、翌年以降も固定資産税の支払い義務が発生してしまいます。
そのため、相続放棄後、速やかに固定資産課税台帳の登録名義の変更をおこない、納税通知書が来ないようにする必要があります。
固定資産課税台帳の登録名義を変更をするためには、法務局で固定資産の相続登記をおこない、本来の相続人に登記名義を移してもらいます。
もし、相続放棄しない他の相続人が申請に必要な書類や申請方法などわからないということであれば、司法書士などの専門家に依頼を促すことをおすすめします。
3.課税処分を取り消してもらう
3つ目の対処法は、課税処分に対する不服申立てをおこない、課税そのものを取り消してもらう方法です。
固定資産税課税処分に対する不服申立ては、固定資産の所在地である各市町村の市町村長(東京23区の場合は東京都知事)に対して行います。
この不服申立てにおいて固定資産税を課税する法的な根拠がないことを主張することで、課税処分を取り消してもらえる可能性があります。
なお、不服申立ては、納税通知書を受け取った翌日から3ヶ月以内におこなわなければなりません。
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相続放棄したのに固定資産税を支払ってしまったら還付請求はできる?
相続放棄して固定資産税の支払い義務がないにもかかわらず、納税通知書がきたことから支払いをしてしまった場合には、還付請求をすることで、支払った金額が戻ってくる可能性があります。
一般的に、固定資産税の還付請求をおこなう主な理由は、固定資産税の算定間違いによる過払い金が発生した場合などです。
しかし、相続放棄したのに固定資産税を支払ってしまった場合でも、一定の条件を満たせば、還付請求が認められる場合があります。
一定の条件とは、「納期限の翌日より5年以内」かつ「還付を請求する法律上の根拠がある」場合です(地方税法417条1項、同法17条の5)。
何度もお伝えしているとおり、相続放棄の手続きよりも台帳課税主義が優先される固定資産税の場面では、その年の1月1日時点において固定資産課税台帳に登録されている限り、固定資産税の支払い義務が法的に認められることになります。
そのため、固定資産課税台帳に自分の名前が記載されているのであれば、「還付を請求する法律上の根拠」は認められないでしょう。
一方で、年内に相続放棄が完了し固定資産課税台帳の名義変更を済ませているにもかかわらず課税通知がきた場合には、「還付を請求する法律上の根拠」が認められる可能性が高く、還付請求をおこなうことで、支払った金額が戻ってくる可能性があるといえるでしょう。
【参考】地方税法|e-Gov 法令検索
相続放棄と固定資産税に関する注意点
相続放棄と固定資産税に関する注意点として、以下の3つを紹介します。
相続放棄と固定資産税に関する3つの注意点 |
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いずれのケースも相続放棄ができず、固定資産税の支払い義務が続いてしまう可能性があります。
3つの注意点を押さえ、固定資産税の支払い義務を無駄に負わないようにしましょう。
1.相続財産から固定資産税を支払うと相続放棄できない可能性がある
亡くなった方の預貯金など相続財産の中から固定資産税を支払ってしまうと、単純承認とみなされてしまい、相続放棄ができなくなってしまいます。
その結果、固定資産も当然相続することとなるため、固定資産税の支払い義務が発生してしまう可能性があります。
単純承認とは、借金などのマイナスの財産を含み、亡くなった方のすべての財産を無条件で相続すると認める行為です。
1度でも単純承認に該当する行為をおこなうと、相続放棄をする意思はないとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
固定資産税の請求がきた際に「とりあえず被相続人の財産の中から支払って対応しておこう」と考える方もいるかもしれませんが、リスクのある行為なのでおやめください。
支払い期日が迫っている、立て替えをするなどで支払う必要がある場合は、ご自身のお金から支払うようにしてください。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
2.不動産の名義変更をすると相続放棄できない可能性がある
相続財産である不動産の名義変更をすると、不動産を相続するものとみなされてしまい、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。
固定資産税の支払い義務から免れるためには、相続放棄をおこない、固定資産課税台帳に登録されている名義を変更してもらわなければなりません。
しかし、相続財産である不動産の名義変更は、相続財産の処分行為(民法921条1項)に該当し、単純承認とみなされるおそれがあるのです。
先述したとおり、1度でも単純承認が認められてしまうと、その後は相続放棄はできなくなり、固定資産税の支払い義務が発生します。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
3.熟慮期間が経過すると相続放棄できない可能性が高い
相続放棄の熟慮期間(申請期間)を経過してしまうと、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます(民法921条2項)。
相続放棄の熟慮期間(申請期間)は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヶ月です。
相続放棄をするなら3ヶ月以内に手続きをする必要があります。
「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」ですが、これは一般的には被相続人が亡くなったときが多いです。
ただし、何らかの特別な事情で自身が相続人であることを知らなかった場合は、知った時点から3ヶ月が経過するまでは、相続放棄が認められる可能性があります。
3ヶ月と聞くと時間の猶予があるように感じるかもしれませんが、亡くなった方の財産調査や申請書類の準備に時間がかかると、すぐ期限になることもありますので、相続放棄をするのであれば、早めに司法書士や弁護士に相談してみることをおすすめします。
【参考】民法|e-Gov 法令検索
まとめ
相続放棄をして固定資産を引き継いでいないのであれば、固定資産税を支払う必要はありません。
しかし、固定資産税の納税義務者は、その年の「1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている者」とされており、相続放棄のタイミング次第では、相続放棄をしていても納税義務が発生します。
もし、ご自身に固定資産税の請求がきてしまった場合は、状況を確認し、この記事でご説明した対応を適切に行いましょう。
個人での対応が不安であれば、相続手続きに精通した司法書士や弁護士など専門家にご相談ください。
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