相続放棄
兄弟姉妹のうち一人だけ相続放棄できる?ほかの相続人に与える影響について解説
自身の親や兄弟姉妹が亡くなったとき、さまざまな状況から相続放棄を考える方もいるでしょう。
しかし中には「兄弟姉妹のうち自分1人だけが相続放棄できるのだろうか?」「ほかの相続人に悪影響を与えないだろうか?」と悩む方もいるかもしれません。
本記事では、兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄することは可能なのか、その場合の影響や注意点などについて解説していきます。
相続はお金が関わる問題であるため、ちょっとした不注意で相続トラブルを引き起こすリスクが高まります。
相続放棄する際にも、慎重な判断が求められることを忘れてはいけません。
相続放棄をおこなう前に本記事を参考にして、適正な対処法を知ってください。
目次
兄弟姉妹のうち1人だけ相続放棄することは可能?
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄することも可能です。
たとえば、あなたに弟がいて「相続財産を弟に引き継いでほしい」と考えているのであれば、あなただけが相続放棄をし、弟にすべての財産を相続してもらうこともできます。
また、兄弟姉妹間の遺産分割で揉めてしまい、「もう自分は関わりたくない」と感じているのであれば、相続放棄によって話し合いから離脱することも可能です。
相続人は相続財産を引き継ぐか・放棄するかについて、ほかの相続人の意向に関わらず、自分1人で判断できます。
兄弟姉妹のうち1人だけ相続放棄した場合に考えられる影響
兄弟姉妹のうち1人だけ相続放棄した場合、どのような影響が考えられるでしょうか?
具体的には以下3つの影響が考えられます。
- ほかの兄弟姉妹の相続割合が均等に増える
- 相続トラブルが起こる可能性がある
- 相続放棄した本人は、相続税申告の際、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
相続放棄する際は、影響に関してもしっかりと理解した上で最終的な判断をおこなうことが理想です。
1.ほかの兄弟姉妹の相続割合が均等に増える
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄すると、放棄した相続人は最初からいなかったものとみなされるため、一切の相続を免れるのが基本です。
そのため、ほかの兄弟姉妹の相続分は、人数が減った分だけ、割合が均等に増えます。
これは、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も同じです。
相続財産が借金の場合、相続放棄をした人は借金の返済義務がなくなりますが、相続をしたほかの兄弟姉妹は借金の返済義務がなくならず、それどころか放棄した兄弟姉妹の分の借金を返済する義務も背負うことになります。
たとえば、借金300万円があって相続人が3人兄弟姉妹の場合、3人とも相続するなら1人あたり100万円の返済義務となりますが、1人だけ相続放棄をしたら、残る2人は1人あたり150万円の返済義務を背負うことになります。
2.相続トラブルが起こる可能性がある
相続放棄は相続人の権利であり、個人の自由意志でおこなえます。
ほかの相続人の許可をとる必要もなければ、報告する義務もありません。
しかし、ほかの兄弟姉妹(相続人)に一切の報告もなく相続放棄をおこなった場合や事後報告となった場合、兄弟姉妹間のトラブルに発展する可能性は大いにあるでしょう。
とくに相続財産が借金であった場合、兄弟姉妹のうちの1人が相続放棄することで、ほかの相続人の負担が増え、相続トラブルを引き起こす可能性は高まります。
また「代襲相続」が発生するケースもご注意ください。
代襲相続とは、相続人が被相続人(亡くなった方)よりも先に死亡している、もしくは相続権を失っている場合に、その相続人の子どもが相続権を引き継ぐ決まりです。
たとえば、被相続人の子があなたと姉の2人で、姉は被相続人より先に亡くなっている場合、姉に子どもがいれば、代襲相続によって姉の子どもがあなたとともに相続人となります。
それを知らず、姉が亡くなっているから相続人が自分一人だと思い込んで相続放棄をすると、姉の子どもに借金を押し付けることになってしまうのです。
被相続人より先に亡くなっている兄弟姉妹がいたとしても、他に相続人となる親族がいる可能性がありますので、きちんと確認し、トラブルが起こらないようにしましょう。
【参考】相続の放棄の申述|裁判所
【参考】相続放棄の申述をされる方へ|裁判所
【参考】ことばの説明(法定相続人・受遺者・遺言執行者・法定相続分・遺留分・代襲相続人)|法務局
3.相続放棄した本人は保険金や死亡退職金の非課税枠が使えない
生命保険金や死亡退職金は、原則として受取人の固有財産として扱われるため、相続財産には含まれません。
そのため相続放棄したとしても、あなたが受取人となっていれば、相続とは関係なく受け取ることが可能です。
しかし、このようなケースで受け取った保険金に関しては、税制上「みなし相続財産」として扱われ、全額が相続税の対象となります。
相続を放棄して相続人ではない立場で受け取った保険金については、生命保険金の非課税制度(相続人が保険金を受け取る際に、「500万円×法定相続人」の額までを非課税とする制度)が適用されないため注意が必要です。
このように、被相続人の生命保険金や死亡退職金の受取人に自身が設定されていた場合、受け取る金額によっては相続放棄が不利に働くこともあります。
【参考】No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
兄弟姉妹のうち1人だけ相続放棄してもトラブルが起きないようにするには?
ここまで解説してきたように、兄弟姉妹のうち1人だけ相続放棄すると、思わぬトラブルを引き起こす可能性があります。
相続に関連するトラブルの多くはお金が関わっていることから、一度でも溝ができてしまうと兄弟姉妹関係に深い傷を残すことにもなりかねません。
以下では、相続放棄でトラブルを起こさないための対処法についてご紹介します。
1.事前に兄弟姉妹に相談する
相続放棄における有効なトラブル回避法は、事前に兄弟姉妹に相談することです。
いくら相続放棄が個人の自由といっても、ほかの相続人に影響を与える可能性がある以上、手続き開始前の相談・報告がトラブル回避につながります。
また、相続放棄自体は相続開始後(被相続人が亡くなったあと)にしかおこなえない手続きではあるものの、被相続人の死後に相続放棄の旨を伝えると、不義理だと怒る兄弟姉妹もいるかもしれません。
はじめから相続する気がないのであれば、被相続人の存命中に兄弟姉妹に相談しておくのも一つの手です。
ただし、あらかじめ相続放棄をほかの兄弟姉妹に宣言したにもかかわらず、あとになって撤回などをしてしまうと、かえって大きな不信感を与える危険性がありますので、状況を見てトラブルにならないベストの判断をしましょう。
2.専門家に相談する
相続放棄は、専門的な知識を必要とし、慣れていない一般の方にとっては、ハードルの高い手続きです。
書類に不備があると何度もやり直すことになってしまいますし、相続放棄をするなら被相続人が亡くなったこと及びこれにより自分が法律上相続人となった事実を知ったときから3ヶ月以内に手続きをしないといけません。
さらに、相続放棄の相談を兄弟姉妹にしようとしても、関係の疎遠さや不仲を理由として、事前相談が現実的ではないケースもあるでしょう。
このような状況では、自分1人で解決を図るよりも、専門家に相談することが賢明です。
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄するケースに限らず、相続トラブルを避けてスムーズに相続放棄するためには、専門家の知恵と力を借りることをおすすめします。
兄弟姉妹全員が相続放棄する方法もある
相続財産が借金しかないと確定しているケースでは、よほどのことがない限り相続するメリットはありません。
その場合、兄弟姉妹全員で相続放棄することも1つの手です。
同順位の相続人が全員相続放棄することで、トラブル発生の可能性を軽減できるでしょう。
通常、相続放棄の手続きは放棄する者ごとにおこなうものですが、同順位の相続人が全員まとめて放棄するケースでは、代表者1人のみを立て、連名での相続放棄手続きが可能です。
裁判所の窓口やホームページで入手できる相続放棄申述書は、連名での申立てに対応した書式ではありませんので、兄弟姉妹全員で連名の相続放棄をおこないたいのであれば、専門家弁護士に書面作成してもらうことがおすすめです。
兄弟姉妹全員が相続放棄した場合はどうなる?
兄弟姉妹全員が相続放棄すると、先述したように相続権は次順位の人へと移っていきます。
- 第1順位 被相続人の子ども
- 第2順位 被相続人の両親や祖父母(直系尊属)
- 第3順位 被相続人の兄弟姉妹
ここでは被相続人と相続人の関係別で、兄弟姉妹全員が相続放棄をしたケースで起こることを解説します。
ケース1.兄弟姉妹の親が被相続人
兄弟姉妹の親、つまりあなたの親が被相続人である場合、兄弟姉妹全員が相続放棄すると、相続権は第2順位である被相続人の両親へと移ります。
たとえば、4人の兄弟姉妹の父が亡くなったとしましょう。
このケースにおいて、母がまだ存命である場合には、配偶者である母と、第一順位である兄弟姉妹4人が法定相続人となります。
この場合に兄弟姉妹4人全員が相続放棄したら、兄弟姉妹4人の相続権は次順位である父の直系尊属(祖父母)に移ります。これが第二順位です。
直系尊属が存命ではない場合は、さらに次順位である父の兄弟姉妹に相続権が移ります。
このように、配偶者である母以外の次順位の相続人に相続権がどんどん移っていく形となります。
なお、配偶者である母が存命ではない場合や、母も兄弟姉妹と一緒に相続放棄した場合、母の相続権がほかの者に移ることはありません。
そのようにして、すべての方が相続放棄をして、相続人が不存在となった場合は、利害関係人または検察官が相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立て、選任された相続財産清算人が遺産の管理や処分をおこない、被相続人に特別縁故者(被相続人と生計を同じくしていた者や、被相続人と特別密接な関係にあった者など)と家庭裁判所に認められた者がいれば、その者に遺産の全部または一部が分与されます。
相続人不在であり、遺贈もなく特別縁故者もいない場合は、被相続人の財産は最終的に国庫に帰属します。
【参考】法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)|法務局
【参考】相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所
ケース2.兄弟姉妹のうちの1人が被相続人である場合
兄弟姉妹のうちの1人が被相続人(亡くなった者)であり、第一順位・第二順位の相続人がいない、もしくは相続放棄した場合は、第三順位である被相続人の兄弟姉妹に相続権が移ります。
そのケースにおいて兄弟姉妹全員が相続放棄した場合、次順位の相続人がいないため、相続人は不存在となります。
被相続人より先に亡くなっている相続人がいない限り、代襲相続も発生しません。
相続人が不存在となった場合の、相続財産清算人の手続きについては、ケース1.と同様です。
【参考】法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)|法務局
【参考】相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所
【参考】遺言書の検認|裁判所
【参考】特別縁故者に対する相続財産分与|裁判所
【参考】相続の放棄の申述|裁判所
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄する場合の注意点
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄する場合は、以下の点に留意しましょう。
- 特定資産のみの相続放棄はできない
- 親や兄弟姉妹の存命中には相続放棄はできない
自身が相続放棄するときはもちろん、ほかの兄弟姉妹が相続放棄する際も注意喚起してください。
注意点1.特定資産のみの相続放棄はできない
兄弟姉妹のうち1人だけが相続放棄する場合に限ったことではありませんが、相続放棄では特定資産のみを放棄の対象とはできません。
たとえば、遠方の山林や農地といった不要な土地のみを相続放棄して、預貯金や実家など有用な財産のみを相続することはできません。
何か1つを相続放棄したら、そのほかの財産まですべてを放棄しなければならないのです。
また、相続放棄をしたあとに、多額の預貯金や価値のある不動産が見つかったとしても、相続放棄の撤回はできません。
したがって、相続放棄を検討する際は、相続財産調査をしっかりおこなった上で本当にすべて放棄してしまってよいのかを熟考することが大切です。
注意点2.相続放棄しても保存義務を負うことがある
相続財産の中に不動産などがある場合、相続放棄をした後も保存義務が残る可能性があります。
相続放棄した者には、次順位の相続人が相続財産を管理・処分できる状態になるまで、「保存義務」が課せられています。
保存義務とは、自身が保有する財産と同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない義務です(民法第940条第1項)。
兄弟姉妹の全員が相続放棄した場合、もしくは兄弟姉妹がいない者が相続放棄して次順位の相続人もいない場合、あるいは次順位の相続人もすべて相続放棄した場合は、その後、利害関係人等から相続財産清算人選任申立てが行われると、不動産の管理は、相続財産清算人に引き継ぐこととなります(民法第952条第1項)。
この保存義務を怠った場合、とくに土地・建物の老朽化などによって近隣住民に損害を与えたとなると、賠償責任が生じる恐れもあるため注意が必要です。
なお、2023年4月に施行された改正民法により、管理義務が多少緩和されました。
以前まで、保存義務(改正前は管理義務)の対象は曖昧で、どこまで管理しなければならないのかが不明確でしたが、法改正後は「相続放棄時に現に遺産を占有している者のみ」が管理責任者とされています。
つまり、現に不動産を管理・使用していない者が相続放棄しても不動産の管理義務は発生せず、保存義務を負うことはなくなりました。
(兄弟姉妹の1人だけ相続放棄した場合は、他に相続人がいるので、保存義務は関係ないのではないでしょうか?削除を検討してもよろしいかと思います。)
【参考】「相続財産管理人選任」の手続とは・・・|裁判所
【参考】民法|e-Gov法令検索
【参考】財産管理制度の見直し(不在者財産管理制度、相続財産管理制度について)|法務省
【参考】財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)|法務省
注意点3.親や兄弟姉妹の存命中には当然相続放棄はできない
相続放棄は、相続が開始していない状態ではおこなえません。
つまり、被相続人が亡くなる前に、すでに相続財産が債務超過であるとわかっていたとしても、前もって相続放棄することはできないのです。
相続放棄をするのが確実であれば、先述したように、ほかの相続人や次順位の相続人に対して、自身が相続放棄を検討している旨だけは伝えておくことも考えましょう。
また相続放棄には3ヶ月間しか熟慮期間がありません。
存命中に相続放棄できないからといって、のんびりと考える時間はない点には注意しましょう。
まとめ
相続放棄は、個人の自由意思に基づくものではありますが、ほかの相続人に与える影響について、あらかじめ考慮することが大切です。
ほかの相続人への影響を考慮しない相続放棄は、親族間のトラブルの引き金にもなりかねません。
また、相続放棄したからといって、即座にすべての相続問題から逃れられるわけではない点にも注意が必要です。
本記事でご紹介した、相続放棄における注意点なども考慮した上で、本当に手続きをおこなうべきか判断しましょう。
なお、相続放棄をスムーズにおこないたいのであれば、専門家への相談がおすすめです。
場合によっては兄弟姉妹全員で司法書士や弁護士等の専門家に相談して、トラブルのない手続きを実現させましょう。
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