遺言書の効力とはどのくらいあるのか|無効になる場合など
亡くなった方が遺言書を残していた場合、相続人は遺言内容に則って遺産分割を行います。しかし、必ず遺言内容通りに分割しなければいけないというわけではなく、相続人によっては最低限遺産を取得できる遺留分もあります。
そのため被相続人(亡くなった方)は遺言内容の効力を理解しておかなければ、自身の思い通りに遺産を相続させることが出来なくなる可能性も高いです。
そこで今回、遺言書の効力について紹介します。また効力が発揮しない遺言書についても解説します。これから終活を始める方はぜひ参考にしてください。
目次
遺言書が持つ効力について
遺言書は被相続人の意思を示した書類ですが、具体的にどのような効力があるのでしょうか。ここでは6つ紹介します。
相続分の指定
遺言書は遺産の分割方法を定めることが可能です。「誰にどの遺産を継承させるか」を決められます。例えば「自宅を配偶者に相続させ、長男に現金などを相続させる」などが挙げられます。
分割方法を指定しておくことで、被相続人の思い通りに相続させることができるだけでなく、相続人同士の遺産争いを防ぐことが可能となります。
相続人の廃除
被相続人の生前中に相続人から嫌がらせなどを行われた場合、被相続人の意志で相続させないようにすることが可能です。これを「相続人の廃除」と言います。相続人廃除をされた人は財産を継承することはできず、相続税の納税も行う必要がありません。
もちろん相続人の廃除は正当な事由が必要です。具体的には下記の内容が該当します。
- 被相続人に対し虐待をした
- 被相続人に対し重大な侮辱を加えた
- その他の著しい非行があった(被相続人が相続人に代わり多額の借入を返済するケースや精神的苦痛を受けた場合など)
遺言執行者の選定
遺言書の内容通りに相続手続きを行ってくれる遺言執行者を選定することが可能です。例えば法定相続人以外の第三者に財産を相続させたい場合、相続人にとっては相続できる財産が減ることになります。
それをさせまいと遺族が第三者に対し圧力や嫌がらせを行うこともあります。しかし遺言執行者がいれば仲介役のような立場で、遺言内容通りに遺産相続するよう取り計らいます。
後見人の指定
法定相続人が未成年者でかつ親権者が不在となる場合、第三者を後見人に指定し財産管理を委ねることが可能です。例えば父親と未成年の子どもの2人暮らしである場合、父親が亡くなった際は子どもが相続人になります。
しかし子どもが未成年者の場合、財産管理能力が無いと判断されるため後見人が必要となります。そんな時のため、被相続人が遺言で後見人を指定することが可能です。
【関連記事】遺産相続で成年後見人が必要なケースは?選ぶ流れや費用、注意点を解説
遺産分割の禁止
遺言書があれば最長で5年間、遺産分割を禁止することが可能です。遺言書がなければ相続人全員で話し合いを行う遺産分割協議にて財産の分割方法を決めます。
しかし、いざ財産を目の前にすると相続人同士でトラブルになることも多いです。その結果誰がどの遺産を相続するかで裁判になることも多く、相続人同士の関係が悪化してしまうことにもつながりかねません。
しかしあらかじめ遺言書で遺産分割協議を禁止することにより、相続人で争うことを防ぐことが可能となります。
【関連記事】不動産を遺産分割する方法とそのポイントを解説
非嫡出子の認知
結婚されていない方との子どもである非嫡出子(愛人の子どもなど)が相続権を得るためには、注意が必要です。非嫡出子は、認知されて初めて相続人となることができます。
その子どもの生物学的父親の認知は、遺言によるものでも効力があります。
遺言書が及ばない効力とは
これまで遺言書の効力について紹介しましたが、必ず遺言通りに遺産分割できるとは限りません。具体的にどのような場合に効力が及ばないのかについて紹介します。
遺留分を侵害する内容
遺言内容に遺産分割を記載した場合であっても、法定相続人には最低限財産を取得できる遺留分があると主張することが可能です。
例えば、遺言内容に「長男に全て財産を相続させる」という内容を明記したとしても、次男は遺留分に応じた金銭を長男に請求することが可能です。(遺留分侵害額請求)
そのため遺言内容通りに遺産を相続させることはできない可能性もあります。ただし兄弟姉妹の相続人には遺留分がないため考慮する必要はありません。
子の認知以外の身分について
遺言によって相続発生後の身分関係の変更を指定することはできません。例えば「養子縁組を結んで遺産相続させる」「死後は配偶者と婚姻関係を解消する」などです。
遺言内容はあくまで遺産の分割を明記した書類であり、身分関係の内容を記載しても意味はありません。
遺産分割協議での決定事項
遺言書を作成したとしても、相続人全員が同意すれば遺言内容を無視して遺産分割協議を行っても問題ありません。遺言書は被相続人が財産分割方法を記載したものですが、相続人にとっては不公平に感じることもあるかもしれません。
もちろん最低限の財産を取得できる遺留分はあるものの、法定相続分より取得できる財産は減ってしまいます。その結果相続人同士で関係が悪くなり、その後にも影響するかもしれません。
そのような点から多く財産を継承できる相続人から「遺言内容を無視して遺産分割協議をしましょう」と提案する方もいらっしゃいます。
遺言書が無効になるケース
遺言書は正しい方法で作成しなければ効力が発揮しません。ではどのような点に注意すればよいのでしょうか。ここでは遺言書が無効になるケースについて紹介します。
日付がない
遺言書は作成した日付が必要です。いつ作成したかが明確でなければ無効となります。そのため作成した日付は記載するように注意しましょう。
記載方法は「令和○○年」や「2022年〇月〇日」などで問題ありません。
パソコンやWordで作成している
被相続人が直筆で書いた遺言書でなければ無効です。
パソコンによる遺言書は、本人が作成しているかわからないうえ、遺言書の内容や作成日などの改ざんがないことを確かめられないからです。
本人以外が作成したもの
遺言書は遺言者本人が作成しなければ効力が発揮しません。本人の意思であることを証明するためにも、自筆で作成する必要があります。
ただし近年ではパソコンなどでも作成でき、偽装の恐れがあるため注意が必要です。
共同で作成したもの
遺言書を配偶者など共同で作成したものに関しては効力が発揮しません。もちろん子どもも同様です。共同で作成するということは、共同作成者に優位に働く遺言内容になりかねないためです。
そのため共同で作成した遺言書は無効となります。ただし相談程度であれば問題ありません。
署名捺印がない
遺言書には作成した本人の署名捺印が必要です。印鑑に関しては特に指定はありません。しかし偽造や捏造を防ぐために実印をおすすめします。
15歳未満
15歳未満の方が作成した遺言書は無効となります。民法が制定された明治時代では、男性が17歳、女性は15歳で結婚できたのが現代になっても影響しているためです。
2022年の法改正により男女ともに結婚可能年齢が18歳に引き上げられましたが、遺言書に関しては変更がないため注意してください。
意思能力がないと判断されている場合
一般的に認知症の診断を受けた方は意思能力がないと判断されるため、遺言書を作成しても無効になることがあります。しかし認知症も軽度なものから重度な症状まで幅広く、過去には認知症の方が作成した遺言書でも裁判で承認された事例もあるため、一概に無効であるとはいえません。
とはいえ基本的に、認知症の方は法律上判断能力が乏しいと判断されるため注意が必要です。
修正や加筆がルールに従っていない場合
自筆証書遺言を作成し、修正する際は二重線を引いて訂正印を押さなければいけません。さらに修正時に、元々記載した文字がわからなくなるように黒塗りすると遺言書が無効となる可能性も高いです。
そのため遺言書の修正や加筆はルールに基づいて作成する必要があります。
まとめ:効力のある遺言の作成は専門家と一緒に
今回は遺言書の効力に着目してご紹介しました。遺言書は「誰にどの遺産を相続させるか」を被相続人の意思で定めることが可能です。
ただし、正しい方法で作成しなければ効力が発揮しません。また遺言書は必ずその通りになるとは限りません。相続人同士で話し合った内容次第では、遺言書の内容を無視することも可能です。
さらに法定相続人には遺留分があるため、不公平すぎる遺言内容では思い通りに遺産分割できないだけでなく、相続人同士でトラブルにもなりかねません。
そのため遺言書を作成する際は、弁護士などの専門家に相談しながら作成するようにしましょう。
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